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『稲盛和夫一日一言』 1月30日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 1月30日(火)は、「足るを知る」です。

ポイント:膨れ上がる利己的な欲望を満たそうとしている限り、幸福感は得られない。反省ある日々を送ることで、際限のない欲望を抑制し、今あることに「感謝」し「誠実」に努力を重ねていく。そのような生き方の中でこそ、私たちは幸せを感じられるに違いない。

 2004年発刊の『生き方』(稲盛和夫著 サンマーク出版)の中で、「足るを知る」という生き方について、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 これからの日本と日本人が生き方の根幹に据えるべき哲学をひと言でいうなら「足るを知る」ということであり、またその知足の心がもたらす、感謝と謙虚さをベースとした、他人を思いやる利他の行いであろうと、私は思っています。

 この「足るを知る」という生き方のモデルは、自然界にあります。
 ある植物を草食動物が食べ、その草食動物を肉食動物が食べ、肉食動物の糞(ふん)や屍(しかばね)は土に返ってまた植物を育てる。
 弱肉強食が掟(おきて)の動植物の世界も、大きな視点から見ると、このように「調和的な」命の連鎖の輪の中にあるのです。

 したがって人間とは異なり、動物はその輪を自ら壊すようなことをしません。草食動物が欲望のおもむくままに植物を食べ尽くしてしまえば、そこで連鎖は断ち切られ、自分たちの生存はおろか、あとに続く生物も危機にさらされてしまいます。そのため彼らには、必要以上にはむさぼらないという節度が本能的に備わっています。

 百獣の王といわれるライオンも、満腹のときは獲物をとりません。それは本能であり、同時に創造主が与えた「足るを知る」という生き方でもあります。そうした知足の生き方を本能的に身につけているからこそ、自然界は調和と安定を長く保ってきたわけです。

 人間も、この自然のもつ節度を見習うべきではないでしょうか。もともと人間も自然界の住人であり、かつては自然の摂理をよく理解し、自分たちも生命の連鎖の中で生きていたはずです。
 それが、食物連鎖のくびきから解き放たれ、人間だけが調和的な連鎖の輪の外へ出ることができるようになった。

 やがて、人間が持つ高度な「知性」は「傲慢」へと変わり、自然を支配したいという欲望を肥大化させていきました。同時に、「足るを知る」という節度の壁は消え、もっと欲しい、もっと豊かになりたいというエゴが前面に押し出され、地球全体の環境をも脅かすほどの状況に陥っています。

 私たちが地球という船もろとも沈んでおぼれないためには、もう一度、「必要以上に求めない」という自然の節度を取り戻すほかありません。
 神が人間だけに与えた知性を真の叡智とすべく、自らの欲望をコントロールする術を身につけなくてはならないのです。

 ただし、知足の生き方とは、決して現状に満足し、何ら新しい試みもなされない、停滞感や虚脱感に満ちた老成した生き方のことではありません。
 それは、人間の叡智によって次々と新しいものが生み出され、健全な新陳代謝が間断なく行われる、活力と創造性に満ちた生き方のことです。

 私欲はほどほどにし、少し不足するくらいのところで満ち足りて、残りは他と共有するといったやさしさ。あるいは、他に与え他を満たす思いやりの心を取り戻すこと。
 甘いといわれようが、絵空事といわれようが、そのような考え方が必ず日本を救い、大きくいえば地球を救うと、私は信じています。
(要約)

 2011年発刊の『京セラフィロソフィを語るⅡ』(稲盛和夫著 京セラ経営研究部編/非売品)の「足るを知る」の項で、人間にとっての豊かさについて、名誉会長は次のように説かれています。

 際限のない欲望にとらわれている人は、どんなに物質的に豊かになっても、心の豊かさを感じることはできません。
 人間にとって豊かさとは、「足るを知る」心があって初めて感じられるものなのです。
 足るを知り、日々感謝する心を持って生きることによって、人生は真に豊かで、幸せなものとなっていくのです。(要約)

 では、「足る」という線引きはどこにあるのか、どこですべきなのか。
 世の中を見渡せば、自分よりいい生活をしている人はごまんといますし、もっと厳しい生活を強いられている人もごまんといます。

 極端な言い方をすれば、「足るを知る」という生き方は、日常の暮らしに困らない、また何かやりたいことがあれば実行に移すことができる、といった富裕な階層にいる人だけが実践しようという気持ちになることのできる考え方なのではないか、といううがった見方をされる方もあるでしょう。

 しかし肝心なのは、私たち一人ひとりが、放っておけば際限なく肥大化していく利己的な欲望に対して、いかに歯止めをかけるかということです。

 「飽くなき欲望の追求は悪をなす」

 人生を生きていく上で、肝に銘じておくべき言葉のひとつではないでしょうか。


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