#7 「愛」を語る

 小説『死にたがりの君に贈る物語』を読了した。愛の物語だった。生の物語だった。幼少期に親が離婚し、再婚した後も喧嘩ばかりの中で育った自分にとって、共働きで自分勝手な両親のもとに生まれた自分にとって、臆病者で他人の視線を気にしすぐに病んでしまう自分にとって、こんなに寄り添ってくれる作品は中々ない。
 自分は親に愛されてないのかもしれない。そう思ってからは、たとえそれが勘違いだったとしても、その考えが頭をぐるぐる回って離れなかった。他人から認められたいという思いも、他人に深く関わりたくないという思いも、それらが他の人に比べて強いのはそんな思考に囚われているからだ。
 死にたいと思ったこともある。鬱病になったこともある。この作品はそれを癒してくれるものではなかったが、そんな自分を理解してくれるような作品だった。
 しかし自分を悲劇の存在として特別視するわけではない。この作品に描かれているのは、現代において誰しもが抱える悩みだ。いつも陽気なあの人も、環境に、才能に恵まれているあの人も、常に人に囲まれているようなあの人も、皆んな同じような悩みを抱えている。人間はどこかで孤独なのだ。
 この作品は孤独を癒すものでも、寂しさを埋めてくれるものでも、愛を与えてくれるものでもない。ただその苦しさを理解してくれるのだ。
 この物語の登場人物の中で誰が一番救われたのだろう。いや一番なんて決められない。それぞれがそれぞれの心を癒していたのだ。互いの存在が互いに寂しさを埋め、愛を受け取っていたのだ。気づかないうちに愛を受け取っていたのだ。
 翻って自分はどうだろう。本当に愛されていなかったのだろうか。示された愛から視線を外し、愛と憎悪を直視するのを避けていただけかもしれない。まだ分からない。でももう少し勇気を出し、向き合ってみても良いかもしれない。
 「愛が重い」こんな言葉を聞くことがある。だがそんなのは当たり前だ。「愛が重い」のではなく、「愛は重い」のだ。なぜなら愛は人を救うのだから。

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