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【KC】Seth Lugoから学ぶ"High"カットボールの可能性【ロイヤルズ】



#Royals の誇る"外科医" Seth Lugo、今夜も素晴らしいオペを披露したのでご紹介しよう!

まずはこちらを見てほしい。

DET戦の一コマ

24/09/26 DET@KC
Riley Greeneの3打席目。
投じた3球目カットボールは、なんとど真ん中へ!
ヤバいと思ったが刹那、Greeneはこれを空振る。

安心も束の間、つづく4球目カットボールも真ん中高めに"浮いてしまう"が、これもGreeneは打ち損じてピッチャーゴロ。
軍配はSeth Lugoに上がったのだった。

Lugoの3球目は紛れもなくど真ん中。危ないと思われたが…

この対決を振り返って、2つばかり分からないことがある。

なぜRiley Greeneは、一般的に「甘い」と評されるゾーンを2球も打ち損じてしまったのか?参考程度に、Greeneは24年wRC+139、こと9月にいたっては181を記録するというリーグ屈指の強打者である。

いやいや、いくら強打者といえど一度や二度打ち損じることくらいあるじゃないか?その通りである。しかしではなぜ、Lugoは一度はど真ん中に行ってしまったような球をもう一度投じたのだろうか?

この二つの疑問に対する私なりの解答がこうだ。

「Seth Lugoは高めのカットボールを意図的に投じているのではないか」

ピッチデザインされたHigh カットボール

この説のリファレンスを得るため、baseball savantを活用しよう。

まず、9つの球種を操るLugoにとって、この日の第1球種はカットボールであった。しかし、その使用率には左右に応じて大きな乖離が見受けられる。(対右が4球、対左が16球)そのため、対左へのカットボールに絞ってHeat Mapを作成した。

こう見ると意図を感じる配球になっている。

このHeat Mapから、対左へのカットボールは主に2つの意図をもって配球されていたことが分かる。

  1. インコースへのカットボール
    目算で8球がこのコースに投じられているが、うち6球においてピッチャー有利の結果を獲得している。(Foul 2球、CS 2球、InPlay Out 2球、Ball 2球)
    Riley Greeneへの1球目も、このゾーンにプロットされている。

  2. 真ん中からアウトハイにかけてのカットボール。
    8球が投じられているが、こちらは対照的に空振り率が優秀であることが分かる。(Whiff 4球、InPlay Out 2球、InPlay Run 1球、Ball 1球)
    Riley Greeneへの3球目、4球目も、このゾーンにプロットされている。

驚くべきことに、アウトハイで空振りを奪った球はいずれもボールゾーンであった。この高さはインでは見逃されていたはずが、アウトだと有効となってくるようだ。またど真ん中に投じられたものでも、(1球はヒットにされたが、)残り2球はピッチャー有利の結果となっている。

まとめると、
バッターボックスのインギリギリを攻めたカットボールは想像の通り有効である。だが、真ん中からアウトハイにかけてのカットボールは高い空振り率を有すキラーピッチとなっている。また、低めには一切投球されていないことも含め、Lugoの徹底した配球が汲み取れる。

NYY戦-"Kitchen Sink Approach"

実は、この高めにデザインされたカットボールが"より"猛威を振るったのは前回登板時だった。

24/09/10 KC@NYY
WCで対戦が見込まれるこのカードは、Bobby Witt Jr.とAaron JudgeのMVP caliberの直接対決であることが拍車をかけ、多くの耳目を集めた。

一戦目を落として迎えたGame2は、Royalsのエース:Seth Lugoがマウンドへ上がる。この34歳右腕は、卓越した9つの球種を武器にMLB No.1のwRC+を誇るNYY打線を圧倒。7.0イニング無失点10奪三振無四球の好投を見せた。(その後、リリーフが無失点4奪三振でつなぎ、5-0でチームは勝利を掴んだ。)

なんとNYYが無四球、長打なし、かつ14三振を喫した試合は史上初とのこと!名実ともにヒストリカルな一夜となった。

歴史的なパフォーマンスを披露したLugoを、敵方の将:Aaron Boone監督は"Kitchen Sink Approach"と独特な表現で讃えた。

“It was just hard for everyone to get a bead on him,” said Yankees manager Aaron Boone afterward. “He’s not making mistakes. It’s hard to really look for one pitch because he’s throwing the kitchen sink at you, and he’s changing speeds on you, and he’s got a lead, and he knows how to attack with that. He beat us tonight.”

「誰にとっても彼を捉えるのは難しかった」とヤンキースのアーロン・ブーン監督は試合後に語った。「彼はミスをしない。彼はありとあらゆる球を投げてくるし、球速も変えてくるので、1球だけ狙うのは難しい。リードもとっているし、そのリードを生かしてどう攻めるかを知っている。今夜は彼が我々を負かした」

https://blogs.fangraphs.com/seth-lugos-kitchen-sink-approach-has-worked-brilliantly/

事実、この日のLugoは持てるすべてを費やしてNYY打線を翻弄した。9つの球種の総合*CSW% 38%がなによりの証左と言えよう。

*CSW%=(CS+Whiff)%:ピッチャーがどれだけ優位にカウントを進めることができたかの指標である。

9つの球種をハイレベルで操っていた。

この日の白眉もカットボールであった。
全体の23%を占める第1球種でありながら、CSW% 46%と信頼に足る数字を残している。Velocity,Spinはいずれも年平均を下回ったが、逆にBreakは年平均以上。平時よりもdropし、横滑りする軌道が球に価値を与えたのかもしれない。

アウトハイで空振り2つ、ファウルチップ、InPlay Outが1つずつ

次は、対左のHeat Mapを見ていこう。
やはりアウトハイへの投球が中心となっている。見逃しはインの方が多いのに対し、アウトハイでは多く空振りを奪っている。これらはDET戦と共通する傾向と言える。
結果から言うと、被打率 .100、奪三振 4の圧倒的な球種であった。

中でもJuan Sotoとの対決はベストバウトだった。
2球目、3球目、6球目とカットボールを投じ、ついには三振に討ち取っている。そして、これらはいずれもアウトハイだった。
リーグ屈指の天才ヒッターですら苦戦している事実が、Highカットボールの有効性を何より裏付けていると言えよう。

“[Lugo] was mixing a lot of pitches really well tonight. He was just pounding the strike zone… putting strike one and strike two to most of the guys,” Soto said. “It’s tough with a guy who has, like, nine pitches and he was showing every pitch, throwing everything and he was confident about it, he just kept us off balance.”

「(ルーゴは)今夜、本当に多くの球種をうまく組み合わせていた。ストライクゾーンを攻めまくっていた…ほとんどの相手にストライク1、ストライク2を投げていた」とソトは語った。「9球種くらいの球種を持つ選手にとっては厳しいことだが、彼はすべての球種を見せ、すべてを投げ、それに自信があった。彼は我々のバランスを崩し続けた」

https://blogs.fangraphs.com/seth-lugos-kitchen-sink-approach-has-worked-brilliantly/

またこの日は、対右にも多くのカットボールが注ぎ込まれていたので記述するとしよう。

全12球が投じられた。

NYY戦では対右のカットボールも多く見られたが、その有効性については疑問符である。対左時と比べるまでもなく、ゾーン外の球はほぼ見逃されてしまっているからだ。インハイでいくつか見逃しを獲得しているものの、High カットボールは対左ほど結果を得られなかったようだ。この結果を活かして、DET戦では対右アプローチを見直したのではないかと思われる。

「どうしてHighカットボールは有効なのか?」

今回はDET戦とNYY戦を取り上げて、Highカットボールの有効性について論じてきた。さて、ここまで読んでいただいた読者なら、すべからく表題の疑問が浮かんだでいるであろう。

これに対して私は…

「わからない…🫠」

まぁ、savantのデータは観測物にすぎず、対戦相手がどう感じるのかは定かではない。「平均よりもライズ気味なカットボールが打者を惑わせているのかも」とか「まだ論じていない、ほかの8球種とのコンビネーションが重要なのかも」とか大いに考察の余地を残しているが、これを実証するには至っていないのが現状。

今回のところは「Lugoの対左Highカットボールはどうやら有効なようだ。」と言及するにとどめておきたい。


またSeth LugoHighカットボールを扱いだしたのは極めて最近のことである。詳細は下記の見づらすぎる図に譲るが、8/30を目途に対左アプローチの変化が如実に現れているのだ

下記の見づらすぎる図

…この図がひそかに言わんとするのは、NYY,DET戦含む計4戦しかHigh カットボールは運用されていないということである…。
統計学は専門外である私でも、このスモールサンプルで有効性を証明するのは無理だ、ということは承知している。

しかし、8月防御率4.91と大いに苦しんでいたLugoが、HOU,CLE,NYYにHQSを成し遂げるというバウンスバックを果たした背後には、やはりHigh カットボールの影がちらついて仕方がない!

レギュラーシーズン、ポストシーズン含めても残りわずかとなりましたが、Seth Lugo選手のHigh カットボールに注目して観戦するのも面白いかもしれませんね。
(そして、だれか妥当な理由を着想してくれないかなー?)

まとめ

9/16のDET戦から着想を得、「Seth Lugoは対左にHighカットボールを活用している」ことを指摘した。あくまで結果からの類推であるが、その有効性について論じた。今後の登板結果に応じて、この説の検証を進めていくこととする。

引用・参照

  • fangraphs

  • baseball savant

  • MLB.com filmroom

  • Yukkuri Movie Maker 4 (画像作成)


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