3 3年のブランク、超越竜の咆哮  遊戯王ジェネレーションズ

デュエルが始まる直前、私は胸の奥で小さな鐘の音を聞いたような気がした。


それは不安と期待が入り混じった、何とも形容しがたい音だった。いや、どちらかといえば不安の方が圧倒的に勝っていたと言える。なにしろ、私はこの3年間、一度もデュエルをしていない。押し入れに封印していたデッキを急ごしらえで持ち出しただけの、準備不足極まりない状態だったのだ。


(俺は……本当にやれるのか?)


ホログラムが起動し、フィールドが立体的に展開される。その光景に一瞬見とれる自分がいた。だが、目の前の天保は、そんな私を嘲笑うかのような笑みを浮かべていた。


「どうした、ビビってんのか?」


「……うるさい。」


私は無理やり声を絞り出し、デッキを握りしめた。その手のひらに汗が滲んでいるのが自分でも分かった。


「いくぜ!デュエル!」


勇希の先行、手札事故だ。

高レベルモンスターばかり。手札には、レベル3緑血族の召使ぐらいか。


「裏側守備でモンスターを召喚! カードを一枚魔法ゾーンにセット」

しかたないか、、、。


天保の猛攻――超越竜の咆哮


「俺のターン!フィールド魔法『超越の荒野』を発動!」


天保がカードを掲げると、フィールド全体が荒涼とした風景に包まれた。砂嵐が吹き荒れ、どこか遠くで恐竜の咆哮が聞こえる。


「さらに、『超越竜サルヴァニオス』を特殊召喚!そして効果発動!デッキから『超越竜アルティメットグラディオス』を手札に加えるぜ!」


フィールドに現れたのは、鋭い爪と金属のような輝きを持つ巨大なドラゴンだった。その存在感に思わず息を呑む。


「そして、『超越竜サルヴァニオス』を生け贄に、『超越竜アルティメットグラディオス』をアドバンス召喚だ!」


フィールドに新たに降臨したのは、さらに巨大で威厳を持つドラゴンだった。その攻撃力は3600――私のモンスターを遥かに凌駕する数値だった。


「このモンスターの効果で、フィールドのカードを1枚破壊できる。お前のカードは……これだ!」


天保が指差すと、私のフィールドに出したばかりのモンスターが一瞬で破壊される。


(くそっ……!)


勇希の葛藤――3年前のデッキで戦う


天保の猛攻に押されつつ、私は手札に視線を落とした。そこにあるカードはすべて、3年前に愛用していたデッキのものだ。「緑血族・マジシャン」や、サポート用の魔法カード、そして効果モンスターたち――懐かしさが胸をよぎる一方で、不安が大きくのしかかる。


(これで……勝てるのか?)


私は自問した。遊戯王という世界は、この3年間で大きく進化している。新たなカードや戦術が次々と生まれる中、私のデッキは過去に取り残されたままだ。


「どうした、早くターンを回せよ。」


天保の挑発的な言葉が耳に刺さる。私は渋々ドローし、カードを引いた。


「俺のターン……。」


カードを見つめるその手が微かに震える。


観客席の鈴


観客席では、鈴がじっと私を見つめていた。その顔には不安の色が滲んでいる。


(勇希……大丈夫?)


鈴の視線が刺さるたび、胸の奥に妙なプレッシャーが生まれる。だが、それと同時に小さな声が聞こえた気がした。


(お前なら、まだ戦える。)


それは、デッキの中にある「緑血族・マジシャン」の囁きだった。


勇希の反撃なるか?


私は手札を握りしめ、フィールドにカードをセットした。


「モンスターを1体セット。そして……魔法カード『緑血の盟約』を発動!」


フィールドが緑色の光に包まれ、小さな人影が浮かび上がる。それは――かつて私のエースだった「緑血族・マジシャン」の幼い姿。


「なんだよ、その懐かしいカードは。」


天保が鼻で笑う。その態度に苛立ちを覚えつつ、私は静かに言葉を続けた。


「……このカードがいれば、俺はまだ戦える。」


言葉に自信が伴っていないのが自分でも分かった。それでも、私の心の奥底で何かが静かに燃え始めているのを感じた。


(まだ……負けていない。)



天保の「超越竜」に圧倒される中、勇希の過去のデッキがどのような反撃を見せるのか。鈴の祈りにも似た視線が、デュエルの行方を見守っていた―


「緑血族・マジシャン」。そのカードは、かつての私の相棒であり、何度も勝利に導いてくれたエースだった。攻撃力2500――一見すれば、今の環境でも十分戦える数字に思える。だが、それはあくまで「かつて」の話だ。


(……これで、本当に戦えるのか?)


思い出せ、自分がどうやってこのカードを使ってきたのか。だが、3年のブランクがその記憶を曖昧にしている。カードを手にする感覚さえもぎこちないまま、


天保はニヤリと笑った。


「どうした?ビビってるのか?さっさと動けよ。」


その挑発的な声に、私は思わずデュエルディスクの画面を握りしめる。


(……どうしようもない。)


ターンエンド


「俺のターン!ドロー!」


天保の声が響き、OCGルーム全体が彼の動きに注目した。その自信たっぷりな態度と、余裕の笑みがやけに鼻につく。


「まずはフィールド魔法『恐竜の眠る大地』を発動!」


フィールド全体が一変し、荒涼とした原始の大地が広がった。そこには無数の恐竜たちの影が浮かび、何とも言えない威圧感を醸し出している。


「このカードの効果で、俺が召喚する恐竜たちは破壊されても、デッキから新たな恐竜を特殊召喚できるんだよなぁ。」


天保はカードを1枚引き抜き、場に叩きつけた。


「『プチラノドン』を召喚!さらに速攻魔法『化石調査』を発動!デッキから『ベビケラサウルス』を手札に加えるぜ。」


次々と恐竜カードを展開していく天保。その動きは流れるようで、見ているだけで圧倒される。


「『プチラノドン』をリリースして、『メガロスマッシャーXWA』を特殊召喚!そして『進化薬』を発動して……おっと、ここで登場だ!」


天保の手札から放たれた光がフィールドに降り注ぎ、巨大な影が立ち上がる。その姿はまるで、暴君そのものだった。


「来い、『超越竜ティラノレックス』!」


超越竜ティラノレックスの降臨


現れたのは、鋭い牙と巨大な体躯を誇る超越竜。「ティラノレックス」の攻撃力は3000――だが、その真の恐ろしさは特殊効果にあった。


「このカードの効果を教えてやるぜ。1ターンに1度、、直接攻撃が可能になる!」


「なっ……!」


私の顔が一瞬で強張るのを感じた。それは、フィールドに守備モンスターを並べるだけでは対処できない、非常に厄介な効果だった。



天保のフィールドには、すでに2体の高攻撃力モンスターが並んでいた。その圧倒的な盤面に、私は完全に飲み込まれる形になっていた。


「『超越竜ティラノレックス』の攻撃!ターゲットはお前だ!」


天保が自信満々に叫ぶと同時に、「ティラノレックス」が咆哮を上げて前進する。その巨体が揺れるたびに、フィールドの大地が震えるようだった。ホログラム越しでも伝わるその迫力に、私は思わず息を飲んだ。


「……これで終わりだな!」


天保は勝利を確信したようにニヤリと笑った。その表情が、やけに鼻につく。だが、私もここで黙って終わるつもりはなかった。


「……その攻撃には、対応する。」


私はポケットに滲む汗を感じながら、伏せていたカードを静かに開いた。


「トラップカード発動!『緑血族の誓い』!」


緑血族の誓い、発動


フィールド全体が緑色の光に包まれる。その光は「緑血族・マジシャン」の周囲でさらに強く輝き、まるでホログラムのモンスターが生きているかのように感じられた。


「『緑血族・マジシャン』がフィールドにいるとき、このカードは発動できる。攻撃してきたモンスターを破壊し、さらに……!」


私は天保を見据えながら、言葉を続けた。


「そのモンスターの攻撃力に、墓地にいる『緑血族』モンスターの数×250を加えた数値の攻撃力を持つトークンを生み出す!」


「ティラノレックス」の破壊とトークンの誕生


緑色の光が「ティラノレックス」を包み込む。その巨体が抵抗するように吠えたが、次の瞬間、光の中に飲み込まれるように消え去った。そして、その場には巨大なトークンが現れた。


そのトークンは人型で、緑色の甲冑をまとっている。攻撃力は「ティラノレックス」の攻撃力(3000)に、墓地の緑血族モンスター1体×250(を加えた3250――圧倒的な存在感を放つ。


「なっ……なんだ、そのトークンは!?」


天保が驚きの声を上げる。


「このトークンは、守備力0でしかもフィールドから離れるときに消滅する。ただし……今は攻撃力3250を持つ存在だ。」


私は冷静を装いながら言ったが、心の中では緊張と高揚が入り混じった奇妙な感覚が広がっていた。


天保の動揺


「ちっ……そんなカードがまだあったのかよ。」


天保は悔しそうに舌打ちをしながらも、すぐに笑みを取り戻した。


「まぁ、いいさ。こんなのはただの事故みたいなもんだ。次のターンでひっくり返してやる!」


俺の切り札、行くぞ――『超越竜アルティメットグラディオス』で、『緑血族・マジシャン』を攻撃だ!」


天保がカードを指し示すと、フィールドの中央で「アルティメットグラディオス」が咆哮を上げた。その金属のような体躯と鋭い爪、そして攻撃力3600という圧倒的な数値が、私のエースを打ち砕くための準備を整えている。


「……!」


私は一瞬だけ言葉を失った。


(やめろ……いや、やめるわけがない。こんな奴が攻撃をやめるはずがないんだ。)


それでも、心のどこかで奇跡を願う自分がいた。だが、現実は無情だった。


「行け、『アルティメットグラディオス』!ダイナスト・スラッシュ!」


鋭い光を纏った巨大な爪が「緑血族・マジシャン」を襲う。その瞬間、フィールドが閃光に包まれた。


緑血族・マジシャンの破壊


閃光が収まると、フィールドにはもう「緑血族・マジシャン」の姿はなかった。ただ、破壊された後の微かな緑色の残光が、空中に漂っているだけだ。


「緑血族・マジシャンの破壊により、君のライフポイントにダメージだ!」


天保がそう告げると同時に、私のデュエルディスクがライフポイントの数値を激しく減らした。


(……くそっ!)


心の中で悔しさが沸き上がる。それは、単にライフポイントを削られたことだけではなく、自分のエースを守れなかったという無力感だった。


緑血族・マジシャンへの感謝


私は、デュエルディスクの画面に表示されるライフポイントを見つめながら、胸の奥で静かな痛みを感じていた。


(……俺がもっと上手くやれていれば、こいつを守れたのかもしれない。)


3年間のブランク。そんな言葉を言い訳にして、デッキと真正面から向き合ってこなかった自分への苛立ちが湧き上がる。だが、それ以上に湧いてきたのは――「緑血族・マジシャン」への感謝だった。


「……ありがとう。」


思わず呟いていた。その声は小さく、誰にも聞こえなかったかもしれない。それでも、心の中で確かな思いが生まれていた。


「お前がいたから、俺はここまで戦えた。」


「緑血族・マジシャン」は私のエースだった。勝てるかどうかも分からないデュエルの中で、彼は最後まで私のそばにいてくれた。その存在が、どれほど自分を支えていたのか――私はようやく理解し始めていた。


天保の余裕


「どうした?感傷に浸ってる暇なんかないぜ。」


天保がニヤニヤと笑いながら言う。その言葉が、やけに耳に刺さった。


「俺の『アルティメットグラディオス』はまだ無傷だ。このままじゃ、お前は次のターンで終わりだな。」


天保は余裕たっぷりにカードを伏せ、ターンを回してきた。


「ターンエンド。さぁ、次はお前の番だ、勇希くん。」


勇希のターン


「……俺のターン。」


私はゆっくりとデッキに手を伸ばし、一枚のカードを引いた。その瞬間、手の中のカードが微かに熱を持つように感じられた。


(……まだだ。俺は、まだ終わっちゃいない。)


胸の中で小さな炎が灯る。それは、「緑血族・マジシャン」が残してくれた最後の光だった。


「次は……俺が見せる番だ。」

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