I Don’t Need Your Love(ミュージカル「SIX」)

ミュージカル全体の流れが大きく変わる(switch the flow)、最後のソロ曲。
イギリスで初めて女性として本を書き、女性の先頭を切って走ったKatherine Parrのソロ曲には、
彼女の知性が表れています。


・タイトルの「your」が示す人物が、曲中に、最愛の人Tomから、結婚せざるを得なかったヘンリー8世に変わる(Heart of Stoneと同じ)。

・前半はTomに宛てた手紙の形を取り、「Dear Tom,」のセリフで始まり、途中の「All my love Catherine」で、手紙そのものは終わる。

・You know it isn’t true
 But I must say to you
 I don’t need your love
 「あなたは私が本心から言ってるんじゃないと分かると思うけど
  それでもあなたに言わなきゃいけない
  あなたの愛はもう必要ない」の意味。
 ここでは、Tomのことを愛しているが、ヘンリー8世と結婚する以上、Tomと別れるために、「あなたの愛はもう必要ない」と歌う。

・I’ve got no choice
 (中略)
 Never had a choice
 (中略)
 I don’t have a choice
 (中略)
 But if somehow, I had that choice
 3回にわたって「Tomと別れてヘンリー8世と結婚する以外の選択肢がなかった」ことが言い換えられながら繰り返された上で、「でも、何かしらの方法で、他の選択ができたとしたら」と切り替える(switch)。
 この後、本曲中で、
①ヘンリー8世に言い返すことができたら…という想像が行われ(ただし、ここでは「実際にはそんなこと言えなかった」と尻すぼみ)、
②remixとして、6人の王妃全員が、ヘンリー8世の愛はもう要らない、と歌い、
さらに、次の「SIX」では、③6人の王妃の別の幸福な人生を歌い上げる。
 つまり、ここで、歴史の再解釈(historemix)を行う、という本作品のポイントとなるアイディアが初めて示されることとなる。

・No holding back, I’d raise my voice
 「(他の選択ができたとしたら)その時は、こらえたりしないで、声を挙げる」の意味。
 前に、Tomに対しては「I’m holding back the tears tonight」(今夜は涙を我慢する)と言っていたのとの対比。
 「Ex-Wives」で「pen and microphone」と歌っていたCatherine Parrだからこそのvoice。

・I’ll never belong to you
 ‘Cause I am not your toy, to enjoy till there’s
 something new
 「私は決してあなたのものにならない
  だって私は、新しいものが来るまで遊ぶ、あなたのおもちゃじゃないから」の意味。
 ヘンリー8世の妻が5人(Catherine Parrを含めて6人)にわたり移り変わっていったことから、「新しいものが来るまで遊ぶ、あなたのおもちゃ」は王妃のことを指している。

・There’s nothing you can do
 「あなたができることは何もない」
 前に、Tomに対しては「There’s nothing left for me to do」(私にできることは何も残されていない)と言っていたのとの対比。

・But I can’t say that
 Not to the king
 So this is goodbye
 All my love
 Catherine
 「でも言えなかった
  国王に対してそんなことは
  だからこれでお別れ
  愛を込めて
  キャサリンより」の意味。
 All my loveは「愛を込めて」などの手紙の結語だが、最も愛しているTomに、あなたの愛はもう要らないと嘘をついて別れを告げる皮肉さも表している。

・But why should that story
 Be the one I have to sing about
 Just to win? I’m out
 That’s not my story
 There’s so much more
 「でもなんで、勝つために、そんな話を歌わなきゃいけないの?
  私は降りる
  そんなの私の話じゃない
  私を表すのはもっと別のこと」の意味。
 その上で、彼女自身の業績を歌う。

・I even got a woman to paint my picture
 「私は自分の肖像画は女性に描いてもらった」
 「Haus of Holbein」のHans Holbein(男性)との対比。女性の画家に仕事を与えるという意味と、男性目線ではない(つまり結婚のためのものではない)肖像画を作らせるという意味が隠されているか。

・Why can’t I tell that story?
 ‘Cause in history
 I’m fixed as one of six
 And without him
 I disappear
 We all disappear
 「どうしてこういう話をできないの?
  結局、歴史の中では
  私は6人の妻の中の1人にされてしまう
  そして彼なしでは
  私は消えてしまう
  私たちみんな消えてしまう」の意味。
 自分の話(story)とhistoryが対比され、historyは「his story」、特にここではヘンリー8世の話。ヘンリー8世を中心に語られ、6人の王妃は妻であったことしか語られず、ヘンリー8世が語られなければ、別に6人の王妃が語られることはない、ということ。
 この後、セリフのやり取りがなされ、Remixへ。

・So we have no choice
 「私たちには選択肢がなかった」の意味。
 先ほどは「I」を主語にしていたが、6人の王妃を示す「we」に主語が変わり、全員で歌うことで力強さが出る。

・We’re taking back the microphone
 I’m gonna raise my voice
 「私たちはマイクを取り戻す
  今、私は自分の声を挙げる」の意味。
 ヘンリー8世の側からでなく、自分の側から自分の話を語る、ということ。
 本曲前半でも「I’d raise my voice」と歌っていたが、結局できなかった、ということになっていた。それがここで本当に声を挙げる、と変化している。
 「Ex-Wives」の「pen and microphone」ともリンク。

・It’s not what went down in history
 But tonight I’m singing this for me
 「歴史上起きたこととは違うけど
  今夜私は、自分のためにこれを歌う」の意味。
 主語が再び「I」に戻り、6人の王妃がそれぞれ自分のために、「I don’t need your love」(ヘンリー8世の愛なんて必要ない)と歌うということ。
 「for me」の部分は、「Ex-Wives」で「just for you」と歌っていたのと対比的。
 「ヘンリー8世なしには私たちは消えてしまう」と歌っていたところから、「ヘンリー8世なんて必要ない」と歌うようになり、さらに、曲の後のセリフでは「ヘンリー8世が有名なのは、むしろ私たち6人の妻のおかげでは?」とself-esteem(自尊感情)のレベルが高められていく。

・5番目のKatherine Howardの「All You Wanna Do」が依存的な傾向を歌っているのに対し、6番目の最後のCatherine Parrがこの曲で自立・自尊を歌っており、憑き物を落としてくれるような爽快さがある。


※ 単なる一ファンによる考察又は妄想です。

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