Heart of Stone(ミュージカル「SIX」)
本作品の中で唯一のパワーバラード。
ストレートな歌詞で、“お涙ちょうだい“にも聞こえそうですが、
観客を感動させる仕組みが隠されています。
・タイトルは、ヘンリー8世の性格に関する、曲前のセリフ「stone-hearted」(石のように冷たい心の持ち主)に掛けられており、「動じない心」といったニュアンスか。
・曲中にstone以外に、tide(潮)、storm(嵐)、blaze(火炎)、fire(火)、wind(風)、water(水)、river(川)と言った自然現象を表す単語が多く登場するのが特徴的。
stoneはJane Seymourを、その他の単語はヘンリー8世を示し、前者は決して変わらない、強いものとして描かれているのに対し、後者は、移り気で、気ままに暴れるものとして描かれている。
なお、自然現象を表す単語は、人間にはどうしようもないものという意味で、ヘンリー8世の神性(王位・イギリス国教会首長)を示し、また、Jane Seymourが歌うことで、彼女だけが唯一それを肯定した妻であったことを示している、とも考えられるかも。
・You say we’re perfect
A perfect family
「あなたは、私たちに欠けるところはない、私たちは完璧な家族だって言っていた」の意。
もちろんweはヘンリー8世とJane Seymourとエドワード6世で、ヘンリー8世が完璧だと言っているのは、娘ではなく「子供」である息子を産んだから。
ただし、Wikipediaによると、Jane Seymourは、子供を産んでその月のうちに産褥死(この単語、他に言い方ないのか!)で亡くなったらしいので、歌詞のような会話があったとすると、出産前か(しかしその時点では男子が生まれるとは決まっていない…)、死の間際に床に伏せている間か。
なお、のちの「SIX」の「Tudor Von Trapps」(テューダー朝のトラップ一家)とリンク。
・when I say you’re the only one I’ve ever loved
I mean those words truthfully
「『あなたは私が愛した唯一の人』と私は言ったけど
それは本当のこと」の意味。
・But I know,
「でも分かってる」の意。
ちなみに、この後、次のフレーズの前に一拍、間があり、Jane Seymourの後ろでここまで微動だにせず座っていたensembleが、息継ぎに合わせてそっと背筋を伸ばす。
・without my son
Your love could disappear
「息子が生まれなければ
あなたの愛はきっと消えた」の意味。
「Ex-Wives」の「the only one he truly loved」(彼が本当に愛した唯一の妻)のとおり、息子を産んだことだけがヘンリー8世の愛の唯一の理由だった(と、少なくともJane Seymourは考えている)ということ。
ヘンリー8世の移り気を確実なものとして認識していることが分かる。
・Soon I’ll have to go
I’ll never see him grow
But I hope my son will know
He’ll never be alone
‘Cause like a river runs dry
And leaves its scars behind
I’ll be by your side
‘Cause my love is set in stone
「もうすぐ私は行かなきゃいけない
私は彼が育つのを見ることはできない
でも息子には知ってほしい
彼は決して一人ではない
川が干上がっても
その痕跡を残すように
私があなたのそばにいる
私の愛は変わらないから」の意味。
死の間際で生まれたばかりの息子を想う言葉。
興味深いのは、ここまでyouはヘンリー8世を指していたのが、「I’ll be by your side」でyourが息子を指していること。
また、自然現象を表す単語の中で、riverだけが時間の流れに従う不可逆なものであり(その意味で変わらないものとしてのstoneと対比的)、behindという単語も「過去に」というニュアンスがあることから、Jane Seymourが行って(go)しまうともう戻って来られないことが強調されている。
そのため、続く最後のサビは、youがヘンリー8世ではなく、息子となって
彼女が亡くなる前の息子への誓い
あるいは
亡くなってしまえばもうそばにいられないけれど、
それでも、息子には自分がそばにいると思わせ、
一人で生きていく息子を励ます言葉
とも取れる。
※ 単なる一ファンによる考察又は妄想です。