令和6年予備試験論文式試験 再現答案【行政法】

作成日:9/9
回答ページ数:4ページ

第1 設問1
 1 Xは、本件処分について名宛人ではないが、自らが「法律上の利益を有する者」(行政事件訴訟法(以下、行訴法)9条1項)にあたると主張することが考えられる。以下、行訴法9条2項にしたがい検討する。
 ⑴「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により、自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害されるおそれのある者を言う。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を、専ら一般的公益に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきとする趣旨を含むと解せられる場合、「法律上保護された利益」が認められる。
 ⑵Xの主張する利益としては、①根菜類を栽培する環境を侵害されない利益、②浸水により住宅の被害を受けない利益が想定される。
 ⑶当該処分を定めた農地法5条1項は、農地を農地以外のものにするうえで、不許可事由として、災害発生のおそれ及び農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれを挙げている。また、5条1項に違反した者に対し、農業上の利用の確保および関係人の利益を踏まえて、必要な処分をとることができる旨定められている。
  以上から、当該処分を定めた農地法5条1項は、営農条件を侵害されない利益、災害により住宅への被害を受けない利益を具体的利益として保護する趣旨を含むと解する。
 ⑷そして、隣接地域で造成工事が行われた場合、隣接地域で農業を営む者は直接的に排水環境という農業に重要な条件に継続的な影響を被る。また、隣接地域に居住する者は、床下浸水による被害を受け、日常生活に重大な影響を直接的に受ける。
  よって、農地法5条1項はかかる者の上記利益を個別的利益としても保護する趣旨を含むと解する。
 ⑸本件で、Xは、工事が行われる乙土地の北側で、排水条件に大きく影響を受ける根菜類等を栽培し、その販売により収入を得ていた。また、甲土地の北東部分にある木造平屋建ての住宅に居住し、造成工事により床下浸水の被害を受けるおそれが生じている。よって、Xは造成工事により直接的に重大な被害を受ける者にあたり、「法律上保護された利益」を有する。
 2 以上から、Xは「法律上の利益を有する者」にあたり、原告適格を有すると主張すべきである。

第2 設問2⑴
 1 Xは、本件処分により「違法」(国家賠償法(以下、国賠法)1条1項)に損害が生じたと主張する。
 ⑴ 行政行為は法規範適合性が重要だから、行為に着目し、また行訴法と国賠法はその制度趣旨を異にするから、「違法」とは、職務上尽くすべき注意義務の懈怠と解する。
 ⑵ 本件では、B及びCが提出した本件許可申請書には、付近の土地等の被害を防除する施設について記載がなかったうえ、XがY県の担当者Dに対し、本件造成工事により畑の排水に支障が生じる旨を主張した際にも、Dは一応の指導はしたものの、その後水路が設置された際も、目視による短時間の確認を行ったのみで問題がないと判断している。
   Dは担当者として、水路が適切に設置されていることを入念に確認すべき立場にあったにもかかわらず、それを怠っているから、職務上尽くすべき注意義務の懈怠が認められる。
 ⑶ よって、Xの上記主張は認められる。
 2 Xは、本件処分が「過失」によりなされていると主張する。
 ⑴ 本件では、許可申請書に記載されている工事の着工時期が令和6年1月10日となっていたところ、実際には令和5年11月には工事は完了していた。担当者Dは、水路の確認時に現地に行っているにもかかわらず、この事実を見逃しており、過失が認められる。
 ⑵ よって、Xの上記主張は認められる。

第3 設問2⑵
 1 Xは、行訴法37条の2第1項の要件を満たすと主張する。
 ⑴ 「一定」の処分とは、裁判所が判定可能な程度に特定されていることを要するところ、本件では、農地法51条1項に基づく原状回復の措置命令を求めているから、裁判所が判定可能な程度に特定されており、「一定」の処分と言える。
 ⑵ 「重大な損害」は、同条2項にしたがい判断するところ、本件処分により根菜類という排水条件に大きく影響される作物を栽培する畑に影響が生じ、自然環境はいったん変更されると回復は困難である。また、住宅の床下浸水のおそれがあり、これによって生活に重大な影響が生じる。よって、「重大な損害を生ずるおそれ」が認められる。
 ⑶ 他の救済手段も法定されておらず、「他に適当な方法がない」ときにあたる。
 ⑷ よって、要件を満たす。
 2 Xは、農地法51条1項の要件を満たすと主張する。
 ⑴ B及びCは、すでに工事が完了していたにもかかわらず、令和6年1月着工という記載をして本件申請を行っているから、「偽り」により「第5条第1項の許可を受けた者」にあたる。
 ⑵ 本件処分により許可された工事によって、本件畑の排水条件に影響が生じ、住宅の床下浸水のおそれもあるため「農業上の利用の確保」および「関係人の利益」を衡量し、「特に必要があると認めるとき」にあたる。
 ⑶ よって要件を満たす。                                                                                                      

以上


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