令和6年予備試験論文式試験 再現答案【民法】
作成日:9/13
回答ページ数:3.8ページ
第1 設問1⑴
1 Cは、乙土地を占有するDに対し、所有権に基づき乙土地の明渡しを請求する。
⑴ Cは、Aの子であるところ、Aに失踪宣告(民法(以下、法令名省略)30条2項、31条)がされ、適法な自筆証書遺言(968条)において乙土地をCに相続させる旨が記載されているから、Cは乙土地を相続し(882条、887条)、その所有権を取得すると主張することが考えられる。
⑵ これに対し、Dは乙土地の所有権登記を有するBから乙土地を2000万円という条件で売買契約(555条)を結び、登記を移転させているから、自らが乙土地の所有権を有すると反論する。
ア Bは遺産分割協議書等を偽造して乙土地の所有権登記を得ていたのであり、無権利者であるから、BD間の売買契約は債権的には有効でも物権的には無効な他人物売買にあたり、Dは所有権を取得しないのが原則である。
イ そうだとしても、Bが有する所有権登記という外観を信頼して取引に入ったDは、94条2項の「第三者」にあたるとして保護されないか。
(ア)この点について、CB間には通謀がないため、同項を直接適用することはできない。もっとも、同項の趣旨は、①虚偽の外観が存在し、②それを第三者が信頼して取引を行った際、③本人に帰責性が認められる場合、第三者の信頼を保護するという権利外観法理にある。そこで、上記趣旨が妥当する場合、94条2項が類推適用されると解する。
(イ)本件では、Bのもとに乙土地の登記があり、虚偽の外観がある(①)。また、Dはその登記を信頼し、Bとの間で売買契約を結んでおり、虚偽の外観を信頼している(②)。もっとも、Bは遺産分割協議書等を偽造して所有権登記を取得しており、Cにはなんら帰責性がない。
また、BがDに対して乙土地を売却したのが8月24日で、Cが本件遺言書を発見したのが8月30日と、1週間程度しか経過しておらず、この点でもDの信頼を保護する必要性は大きくない。
(ウ)よって、94条2項は類推適用できず、Dは「第三者」にあたらない。
ウ よって、Cの上記請求は認められる。
第2 設問1⑴
1 Aは、乙土地を占有するFに対し、所有権に基づき乙土地の明渡しを請求する。
⑴ Aは失踪宣告を受けていたが、家庭裁判所によりその取消しを受けているから、「失踪の宣告によって財産を得た者」であるFは「権利を失う」ため、Aは乙土地の所有権を有すると主張することが考えられる(32条2項)。
⑵ これに対し、Fは、乙土地の所有権を有していたEと売買契約を結び、乙土地を2000万円で購入し、その登記を受けているうえ、失踪宣告の取消しは失踪宣告後「取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」から、自らが乙土地の所有権を有すると反論することが考えられる。
ア この点について、「善意」とは、取引において重要な役割を果たした者全員が生存の事実を知らないことを言うと解する。
イ 本件では、EはAの生存を認識しておらず「善意」と言える。一方で、FはBから、A生存の事実を聞いており悪意である。
また、Bは、Eに対して買戻しの可能性を示唆しながら乙土地を売却していたため、EF間の取引にあたってもEから確認を受けるなど、EF間取引を認識し、その成立に重要な役割を果たしていた。そしてBはAの生存について認識していた。
ウ よって、取引において重要な役割を果たした者全員が生存の事実を知らないとは言えず、「取消し前に善意でした行為」にあたらない。
2 以上から、失踪宣告の取消しによりEF間の売買契約は影響を受け、Aに乙土地の所有権が戻るため、Aの上記請求は認められる。
第3 設問2⑴
1 Gは、Jに対し、500万円の不当利得返還請求をする(703条)。
⑴ Gは本件誤振込みにより、500万円の「損失」があり、Jは同額の「利益」があり、両者は同一の振込によって発生しているから因果関係が認められる。
⑵ では、「法律上の原因なく」と言えるか。
ア 「法律上の原因」がないとは、受益者の利益を正当化する実質的・相対的な理由がないことを言う。
イ 本件では、JはG及びHとなんら関係がなく、Jへの振込みは誤りだから、Jは500万円を受け取る理由がない。また、銀行実務では誤振り込みの際、受取人の承諾を得てから振込依頼前の状態に戻すことにしているが、通常、銀行が誤振り込みと認識している場合、口座名義人に法律上の占有は認められず、その金額を口座名義人が引き出そうとした場合、銀行は拒絶することとなっている。
ウ よって、Jの利益にはそれを正当化する実質的・相対的理由が認められない。
⑶ よって、Jの利益には「法律上の原因」が認められない。
2 以上から、Gの上記請求は認められる。
第4 設問2⑵
1 Gは、Lに対し、500万円の不当利得返還請求をする。
⑴ Gは500万円の「損失」があり、Lは同額の「利益」がある。
⑵ 上記の損失と利益に因果関係は認められるか。
ア Gの損失は、誤振り込みによるもので、Lの利益はJからの弁済によるものであるから、因果関係はないとも思える。
イ もっとも、Jが誤振り込みにより得た500万円をそのままLに渡しており、全体として見れば因果関係があると考えられる。
⑶ 上記の損失と利益に法律上の原因が認められるか。
ア Lの利得はJに対する債権の弁済の受領であり、法律上の原因があるとも思える。
イ もっとも、債権者が、誤振り込みによる利益であることを認識していたような場合では、法律上の原因が認められないと解する。
ウ 本件では、JはLに500万円を弁済する際、自分の銀行口座位に誤って振り込まれた金銭である旨を説明している。
エ よって、Lは誤振り込みであることを認識しており、法律上の原因が認められない。
2 以上から、Gの上記請求は認められる。
以上
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?