ドラマ評|『ハイ・ライフ』 みんなハイでご機嫌なら、世界は平和で居心地がよい
南国の首都で暮らしていたときのこと。よく晴れた午後、することもなくソファで寝転んでいると、よく友だちの友だちが、乾燥した葉っぱが詰まった靴の箱を抱えて遊びに来た。ビールを飲みながら、葉っぱをまわす。そんな日常、いま考えれば天国のような日々だった。
ラジオから流れる能天気な音楽が、キラキラした粒になって部屋の中を漂い、笑いがとまらなくなる。友だちとはテレパシーが通じたし(何語で話していたのか覚えていない)、ハイになって繰り出す夜の街は、まるでフェリーニの映画のように幻想的だった。
なので、法治国家であるいまの日本では許されないが、高樹沙耶さんが築こうとしていた大麻解禁によるユートピア世界への希求も、わからなくはない。「ハイ・ライフ」は、そんな彼女にぜひ見てもらいたいドラマである(たぶん見ていると思う)。
南カリフォルニアでマリファナ薬局(非合法?)を経営する、かつてのヒッピー&女性解放運動の活動家のルース。演じるのはオスカー女優のキャシー・ベイツ。こんなハマり役があるのかと思うくらい、ハマっている。従業員たちはみんなご機嫌で、共同経営者である息子だけが、チェーン展開しようとしゃかりきになっている。でもご機嫌なみんなは、面倒くさいだけだ。だって、楽しければ、今のままでいいじゃない?
チェーン展開の計画を熱く語る息子。その計画をじっと聞いている従業員。「で、君の意見はどうだい?」と聞かれた従業員の答えは、「ごめん、聞いてなかった」。葉っぱの世界はそんなふうに率直で、限りなく平和だ。たぶん、戦争なんて起こらないだろう。
世の中が(たとえラリっていても)みんなご機嫌ならば、世界は居心地がいいはずだ。世間というものが、しかめっ面で、怖い顔だから、いろいろなトラブルが起こり、人々は心の病を抱えるのだ。人の話を聞いていなくても、ご機嫌な人たちと仕事をするほうが、絶対に楽しいにちがいない。今の世の中には、たぶん、葉っぱが足りないのだ。
というようなことを夢想してしまうドラマであり、個人的にはマツコデラックスさんあたりに(芸能界を引退した後でいいけれど)、千駄ヶ谷の辺でマリファナ薬局を開いてもらいたい。そしたら、毎週通うだろうな。いつか、そんなご機嫌な世の中になることを願う。
ずっと前に見ていたパート1だが、気がつくとパート2も配信されていた。こちらも相変わらずご機嫌だ。冒頭、4月20日はマリファナ記念日ということで、街中で盛大なパーティーが行われているのだが、なぜ4月20日が記念日か誰も知らない。まあ、そんなことはどうでもよく、冒頭からかなり本格的なミュージカルが繰り広げられる。ときおり劇中に挟まれる可愛くシュールなアニメーションも、なかなか凝っていて面白い。
製作は『コミンスキー・メソッド』のチャック・ロリー。願わくばシーズン2以降も続いて欲しかった。こんな世の中だからこそ、こんなドラマ(シットコム)が望まれる。ラブ&ピース。
(2017〜2018年 アメリカ 製作総指揮:チャック・ロリー Netflixで視聴可能)
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