冬の静寂⑥
四十年後。
美咲は白髪混じりの髪を優しくとかしながら、窓辺に座っていた。外は穏やかな雪景色。かつての激しい吹雪は、静かな白い世界に変わっていた。
ドアが開き、成長した息子が幼い娘を連れて入ってきた。美咲の孫娘、七歳の陽菜は、祖母の膝に飛び乗った。
「おばあちゃん、昔の話、聞かせて」
息子は台所で紅茶を入れながら、母親の横顔を見つめていた。彼の目には、かつての母親の苦労を理解した優しさが宿っていた。
美咲は幼い頃の彼との日々を思い返す。かつての苦難、孤独、そして乗り越えてきた数々の試練。息子は今、自分と同じ育児の道を歩んでいた。
「おばあちゃん、昔はつらかったの?」陽菜が純真な瞳で尋ねた。
美咲は微笑んだ。「大変だったけど、それでも、あなたたちを愛することは、いつも変わらなかったの」
息子は母の隣に座り、その手を静かに握った。言葉はいらない。互いの理解が、静かな部屋に満ちていた。
窓の外。雪はまだ静かに、優しく降り続けていた。世代を超えて続く、愛の物語。苦難を乗り越え、理解し、そして繋がっていく命のリズム。
美咲は深く、深く息をした。
冬は去り、また必ず戻ってくる。 そして、命は続いていく。