霧の中の灯台~第1話:帰郷と不気味な足音②
母が暮らす家に到着すると、そこもやはり時間の重みを感じさせる場所だった。木製の玄関ドアはガタついており、塗装が剥げ落ちた壁は修理が必要そうだ。
「おかえり、アリシア。」
迎えに出てきた母の声はどこか張りがなく、顔にも疲れが滲んでいる。最近は足が悪くなり、家の中で過ごす時間が増えたらしい。
「東京の生活はどうだったの?」
母は微笑みながら尋ねるが、その目は何かを隠しているように見えた。アリシアも無理に答えを返すことはせず、ただ小さくうなずくだけだった。
母の話を聞き流しながら、ふと視線が玄関脇の古い靴箱に止まる。そこに、一足の泥だらけの靴が置かれていた。サイズからして、子ども用のものだ。
「これ、誰の?」
「……ああ、それね。最近村の子が遊びに来て置いていったのよ。」
母はすぐに話題を変えたが、どこかぎこちなかった。