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【本】『喫茶おじさん』原田ひ香さん著を読んだ感想

この主人公の「おじさん」は、なんて人をイライラさせるんだろう。
ストーリーが中盤を過ぎるまで、私はそんなことを思いながら読んでいました。

主人公であるおじさんが考えていることや発する言葉はいつもどこか卑屈で、快活さがありません。
その上、無意識に人の神経を逆撫でするようなことも言います。
登場人物からもことごとく「やっぱりあなたはわかってないね」と言われる始末。
なんでこんなぱっとしない人が主人公なんだろう、と思いながらページをめくっていました。

しかし途中でふと気づいたのです。
作者が意図してこのおじさんを「イラつかせる人物」として描いているのだと。
考えてみれば当たり前のことだけど、そこに気づいてからは「作者が伝えたいことはなんだろう?」と思いながら読みました。

おじさんのまわりの登場人物は皆、なにかしらの悩みを抱えています。
そのまわりの人々と対比させるように、おじさんはへらへらと喫茶店巡りをしながら生きている。
私たち読者は、おじさんのまわりの人たちの思いに共感を覚えながら読み進めていくことになるのですが、ある地点までくると、当のおじさん自身もわりと大きな悩みを抱えていることを知るのです。
「こう見えておじさんも大変だったのか」と気づいたあたりから、この小説はどんどんおもしろさを増していきます。

目に浮かんでくる純喫茶の風景とおいしそうな食べ物、少しずつ明かされていくおじさんの人生、そしておじさんの未来の選択。

日常系ヒューマンものが好きな方におすすめの小説です。

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