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人事異動は突然に…




俺は大手農機具メーカー△×工業に勤める
営業マン。

元々機械いじりが趣味で
それが高じてこの会社に入った。

成績もそこそこ、
特別に何か任されてる訳でもない。


…はずだった。


部長:おい●●!ちょっといいか?

〇〇:はい!

--

部長:君は先日決まった
大型契約のことは知ってるか?

〇〇:あぁ、確か××県の村の
農村再生計画のやつですか?

部長:そのことなんだが…
結構大きな案件になりそうでな。
村にうちの営業所を作ることになった。
まぁ、従業員は1人だがな。

〇〇:はぁ…でもなぜその話を私に?

部長:それは、
君にその営業所で働いてもらうからだ。

〇〇:え!?
たしかあの担当は□□さんじゃ!?

部長:そうなんだが…あいつには家族がいる。
移住ってなると中々大変でな。

〇〇:移住って…どのくらいそこにいるんですか?

部長:とりあえずは1年だな。
あそこにはご高齢の方が多い。
うちの器具の説明もしなきゃならん。

〇〇:い、1年…

部長:異動は来月からだ。
よろしく頼むよ…。

〇〇:…はい。

突然言われた人事異動…。

ネットの地図で場所を調べると
周りは山に囲われている。

これって…左遷じゃないよな?

--


異動日当日…


新幹線に乗ったあと、
バス揺られる事1時間半…


〇〇:ここ…か…

バス停に着くと周りは緑しかない…

〇〇:えっと確か役場の人が
迎えに来てくれるはずだけど…

ブーン…

??:すいません!お待たせしました!

車から40代後半の男性が降りて来た。

〇〇:いえいえ、今ついたばかりですので…
●●〇〇と申します。
これからよろしくお願いします!

八神:はい!よろしくお願いします!
私、八神と申します!
では村にご案内しますね!
大体1時間ほどで着きますので!

マジかよ…

--

八神:着きました!ここが櫻村です!

〇〇:おぉ…

予想より畑や田んぼが多く、
ザ・農村って感じだな…

八神:それじゃ農協の方に行って
会長に挨拶に行きましょう!

--

八神さんに連れられ、農協の寄合場に着いた。

八神:すいませ〜ん!

??:は〜い!

中から若めの女性の声が聞こえた。

ガラガラ

??:あ!八神さん、こんにちは!
…そちらの方は?

八神:あぁ、今日からここにいてくれる
△×工業の●●さんだよ!

〇〇:はじめまして、△×工業から来ました●●〇〇です。
よろしくお願いします!

??:はじめまして!
私、菅井友香と申します!

八神:友香ちゃん、会長よんでくれるかな?

友香:は〜い!会長!
△×工業の方来ましたよ!

会長:おぉ、ようこそおいで下さいました!
これからよろしくお願いしますね!

〇〇:はい…

会長:そうだ!
今日の夜、あなたの歓迎会を
やりますので是非いらして下さい!

〇〇:は、はぁ…

会長:よぉし!こうなったら準備だー!

〇〇:…。

友香:すいません、
会長はお祭り事が大好きなもんで…。

〇〇:い、いえ…お構いなく…。

八神:まぁ歓迎会まで時間ありますので、
ご自宅の方に案内しますね!

〇〇:あ、はい…。

友香:じゃあ●●さん!またあとで!😁

ドキッ

あれ?何だろう…この感じ…
なんかこう…胸がキュッてなるような…

いや、移動が長くて疲れただけだろう…

--

そっからしばらく歓迎会までは
用意されたアパートでのんびりしていた。

〇〇:ここで最低でも1年か…

はぁ〜テレビもねぇ、ラジオもねぇ、
車もそれほど走ってねぇ。

ってほどじゃないけど、それに近い状況ではある。

言葉を選ばずに言えば、
時代に取り残された村だ。

話に聞いていた通り、
村人はご高齢の人ばかり…

さっさと東京に戻りてぇ…

コンコン

??:●●さ〜ん!

あの声は…

ガチャッ

〇〇:あぁ、菅井さん。

友香:歓迎会の準備ができたので
迎えに来ました!

〇〇:あぁ、わざわざすみません!

友香:いいえ!それじゃ行きましょ!

俺は菅井さんに連れられ、寄合場に向かった。

友香:いきなりなんですけど…
●●さんっておいくつですか?

〇〇:ええっと、25ですね。

友香:え!私と同い年!?

〇〇:え、そうなんですか?

友香:はい!

〇〇:菅井さんはずっとこの村に住んでるんですか?

友香:いえ?私は去年まで東京でしたよ?

〇〇:そうなんですか!?

友香:はい!でも自然のあるところでの
生活に憧れて、移住したんです!

〇〇:へぇ〜。

友香:●●さんはいつまでこちらにいるんですか?

〇〇:会社には最低でも1年って言われましたね。

友香:△×工業って大手企業ですもんね〜。
●●さんもかなりのエリートなんじゃないですか?

〇〇:いえ、そんな…

友香:あ、着きましたよ!

--

寄合場の中に入るとこの村の人達で
ごった返していた。

会長:おー●●さん!こっちへどうぞ!

〇〇:え、あ、はい!

会長:よし、みんな聞いてくれ!
あの△×工業から来てくださった●●〇〇さんだ!

〇〇:えー●●〇〇と申します!
機械については大丈夫ですが、
農業については至らない点もあると思います。
ですが、皆さんのお力になれればと思いますので、
よろしくお願いします!

パチパチ

会長:さぁさ、どうぞ呑んでください!

〇〇:あ、ありがとうございます…

会長:いや〜●●さんのおかげで、
これからの農業は楽になりますよ!

〇〇:あ、いえ、自分は機械について
教えるだけなんで…

会長:それでも助かりますよ!
何せこの村、若いのっていったら
友香ちゃんくらいだからね!

友香:そうですよ!あの機械のおかげで
みんな楽になるんですから!
期待してますよ!😁

〇〇:!?

ドキッ

まただ…

"友香ちゃーん!お酒とってー!"

友香:はーい!じゃ●●さん!
改めてよろしくお願いしますね!

そう言って菅井さんは呼ばれた方に向かった。

〇〇:…。

俺はその姿を目で追っていた。

男1:なんでぇ、おめぇさん!
友香ちゃんに惚れちまったのかい?笑

〇〇:え!?あ、いや…

男1:まぁ、あんだけ可愛い子なら無理ねぇなあ!

〇〇:///

これって一目惚れってやつなんだろうか…

--

それからはうちの会社の器具の説明をしたり、
器具の点検をしながら、農作業の手伝いをした。

男1:いや〜あんた中々働くねぇ〜。

〇〇:い、いえ…

男1:器具の説明も分かりやすいし、
ほんと助かるわ〜。

〇〇:あ、ありがとうございます…

友香:●●さ〜ん!

〇〇:あ!菅井さん!

友香:お疲れ様です!
おにぎり作って来たんですけど、
お昼にしませんか?

〇〇:ほんとですか!?
ちょうどお腹空いてたんですよ!

友香:はい!どうぞ!

モグモグ

友香:どうですか?

〇〇:ん!美味しいです!

友香:よかった〜。
どうですか?ここの生活は慣れました?

〇〇:まぁ、少しずつですかね。

友香:まぁこないだまで都会で暮らしてた人からしたら不便かもしれないけどいいところですよ!

〇〇:えぇ、人もあったかいし…

友香:●●さんもこの村の立派な一員ですからね!

〇〇:え…

友香:じゃ私は会長のお手伝いが
あるんでいきますね!

〇〇:え、あ…

そう言って菅井さんは行ってしまった。

男1:おやおや、
こりゃ中々ロマンスは始まらんねぇ〜。

〇〇:ちょっ、やめてくださいよ!///

男1:あっはっはっ笑

こんな感じで村人の人とは仲良くやっていた。

--

もうすぐ1年が経とうとする頃…

プルルルル

〇〇:ん?部長からか…

ピツ

〇〇:はい、●●です。

部長:お疲れ、どうだそっちの生活は?

〇〇:まぁそれなりに楽しくやってますよ。

部長:そうか。

〇〇:それで?どうかしましたか?

部長:あぁ…お前、こっちに戻るか?

〇〇:えっ!?

部長:そっちの成果も上々だしな。
お前が望むなら、こっちに戻しても構わないぞ。

〇〇:はい!それじゃ…

いや…

〇〇:…ちょっと考えます。

部長:そうか…お前なら即行でこっちに
戻るって言いそうだったんだがな。
まぁ、一週間後にまた聞くよ。
じゃあな。

プープー

--

俺は外を散歩していた。

"お前なら即行でこっちに戻るって
言いそうだったんだがな。"

俺だってそう思っていた。

でも…あの時…

??:あれ?●●さん?

〇〇:?あぁ、菅井さん…

友香:●●さんもお散歩ですか?

〇〇:まぁ、そんなとこです。

友香:…どうかされたんですか?

〇〇:え…。

友香:少し深刻な顔されてたので…

〇〇:あぁ…実は…

俺は異動の話を菅井さんにした。

友香:そっか…。

〇〇:まぁ、元々1年くらいって話でしたから…。

友香:寂しくなるなぁ…。

〇〇:えっ!?

友香:え、あ!む、村の人がですよ!?
みんな結構●●さんに助けらてるって言ってたので!

〇〇:あ、あ…

友香:でも●●さんが来てから
本当に助かってるんです!
今まで大変だった作業がすごい楽になって…。

〇〇:それは機械がいいだけで…。

友香:ううん。●●さんが説明上手くて
一緒に手伝ってくれるからですよ!
村のみんな、ほんとに感謝してるんです!

〇〇:…。

友香:だからそんな人がいなくなるって…
寂しいなぁって…。

ズキッ

あぁ…これか…。

あの時に即答できなかった理由は…。

〇〇:菅井さん。俺…決めました。
俺…残ります。

友香:え…えー!!!

〇〇:もう決めました。

友香:で、でもいいんですか?
もしかしたら昇進とか…

〇〇:それもあったかもしれません。
でも、即答できなかった理由がわかったんです。

友香:理由?

〇〇:正直な話、ここに来た時は早く本社に戻りたいって思ってました。
でもここにいるうちに楽しくて…
ここの生活も悪くないなって思えました…。
そう思えたのは…菅井さん、あなたのおかげです。

友香:私?

〇〇:辛い作業があってもあなたの顔を見ると疲れとかが一気に吹っ飛ぶんです。

そして人事異動の電話が来た時に
菅井さんの顔が真っ先に浮かんだんです。

僕は多分、あなたの事が好きなんです。
あなたのそばにいたい…

こんなに人を好きになるなんて今まで…
いや、これからもないと思います。

だから…俺はここに残って
あなたのそばにいたいです。

友香:よかった…。

〇〇:え…

友香:私の片思いじゃなかったんだ…。

〇〇:え…えー!!

友香:実は私…ここに移住してきたのは、
失恋をしたからなんです。
前の会社の先輩が好きでその時はこれ以上の
恋はないって思ってました。

でも…私の同期で仲が良かった子と
付き合い始めたんです。

それで会社にいるのが辛くて…。

それもあって前から興味があった農業の
出来るこの村に移住したんです。

〇〇:…。

友香:そこに●●さんが来ました。
最初は普通に仕事仲間だと思ってました。
でも…一緒に作業する内に好きになっていきました。

でも、少ししたら●●さんも東京に帰ってしまう…。

でももうあんな辛い思いをしたくないから、
この思いはしまっておこうって思いました…。

〇〇:そうだったんですか…。

友香:だから残ってくれるって聞いて、
すごい嬉しいです!
これからもよろしくお願いします!

〇〇:はい!よろしくお願いします!

--

その数日後…

会長:え〜今年度もみなさんお疲れ様でした!
今年度から△×工業さんの器具のおかげで
今まで以上の成果が出せました!

そこでみなさんに朗報です!

〇〇くんが元々1年で
東京に帰る予定だったんですが、
まだいてくれることになりました!

パチパチ

会長:では、乾杯!

男1:いや〜よかった!
〇〇くんが居てくれると本当に助かるからさ!

〇〇:いえいえそんな…

男2:でもよかったのかい?
こんは辺鄙な村より東京の方が楽しいべ?

〇〇:そうかもしれないですけど…

友香:でも〇〇くんの顔、最近生き生きしてる!


〇〇:まぁ…友香ちゃんをはじめ、
みなさんといるのが楽しいですから笑

男1 :お、嬉しいこと言ってくれるねぇ〜

男2:てか2人はいつ付き合うんだい?笑

〇〇:え、あ、その〜

友香:もう私達は付き合ってるもんね!

ギュッ

〇〇://

男1:ほんとかい!?

男2:会長!友香ちゃんと〇〇くん付き合ったってよ!

〇〇:ちょ、ちょっと!

会長:おお、こりゃ、めでてぇ!
よ〜し!今日は宴じゃ〜!!

"ワッハッハ!!"

友香:楽しいね!

〇〇:…あぁ。そうだね。

友香:ずっと一緒にいようね!

〇〇:うん!


俺はしばらくしたのち会社を辞め、
農業に専念した。

その頃に結婚した。

結婚式はこの村で行い、会長が牧師を務めてくれたりと村人みんなに祝ってもらえた。


会社員にとって人事異動は絶対。

でもこの村…友香の隣からの異動命令には
絶対従わない。

俺はここに永久就職した。

あの時の異動命令を受けなかったことを
後悔することはないだろう


Fin

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