気持ちを込めて…
私は賀喜遥香。高校2年生。
今私は人生の勝負に向き合っています。
それはなぜかと言うと…。
“○○くん、おはよ!”
“○○くん、今日もかっこいい!!”
今廊下のほうで呼ばれてる男子。小室○○。
あの女子からの黄色い声で察せる通り、イケメンだ。
そんな彼は私と同じクラスで隣の席だ。
○○:賀喜さん、おはよ。
遥香:おはよ。
もうすぐバレンタイン。
世の女性たちは意中の相手に手作りのチョコを渡して
思いを伝えるのだろう。
しかしこの学校、もとい彼に関しては違う。
○○:あ、こないだ店に来てくれてありがと。
遥香:ううん、こないだもおいしかった!
彼の実家は地元で人気の定食屋。
○○くんも中学生の頃から厨房に立っているので
料理の腕はすでにプロだ。
そんな彼に手作りチョコを渡すということは
プロに挑戦するようなもの。
周りの女子はそういう理由からより高級なチョコを
渡そうと躍起になっている。
でも私は絶対に手作りで作ると決めた。
その方が印象に残ると思う。でもそれだけじゃない。
彼には他の女子たちと違って伝えたいことがあるから…。
――
あれは私が中2の時…。
遥父:母さん!今日の昼外で食べないか?
遥母:あら?どうしたの?
遥父:こないだ仕事の時に安くておいしい定食屋さんを
見つけてね。
そこにいこうと思う。遥香もいいか?
遥香:うん。行く~
私のお父さんは食べるのが好き。そのお父さんがおいしいと言ったとこなら間違いないと思って迷わずについていった。
遥父:着いた!ここだよ!
私が住んでる町の隣町にあったその店の名前は“小室食堂”
ガラガラ…。
“いらっしゃいませ!”
中に入ると昔ながらの定食屋という感じの内装だった。
○○:いらっしゃいませ!3名様ですか?
遥父:はい。
○○:今日はご家族ですか?
遥父:覚えてるのかい?
○○:はい!先日来ていただいた時に
とてもおいしそうな顔をされていたので。
遥父:ほんとにおいしかったからね!
今日は家族を連れてきたよ!
○○:ありがとうございます!では席に案内しますね!
私はその時初めて○○くんと出会った。
○○くんは忙しい時でも爽やかな笑顔で接客していた。
○○:ご注文はお決まりですか?
遥父:俺はハンバーグ定食かな。遥香は?
遥香:え~っと、エビフライ定食で!
遥母:私は鯖塩焼き定食で。
○○:はい!かしこまりました!
彼は注文を取ると厨房に消えていった。
――
○○:おまたせしました!
彼が料理を運んできた。その定食はご飯とみそ汁、
大きなエビフライが3本のったシンプルな定食だった。
○○:ごゆっくりお召し上がりください!
遥香:いただきます!
サクっ…。
遥香:ん!美味しい!!
遥父:だろ!
遥母:ほんとおいしいわね!
ここのエビフライは今まで食べてきたエビフライとは
段違いのおいしさだった。
あまりのおいしさに大きいエビフライだったが
すぐに食べきってしまった。
遥香:ごちそうさまでした!
○○:はい!ありがとうございました!
遥父:君も料理するのかい?
○○:はい。全部ではないですけど…。
今日お出ししたエビフライとかは私が作りました。
遥父:そうか。娘がおいしいって絶賛だったよ。
○○:ありがとうございます。
遥父:また来るね。
○○:はい!お待ちしております!
ガラガラ…。
“ありがとうございました!”
遥香:ふー、おいしかった!
遥父:あの子聞いたら遥香と同い年で
隣の中学校に通ってるらしいぞ?
遥香:え?そうなの?
遥父:あの年であれだけの腕だから将来は
すごい料理人になるぞ~。
それから私達家族は毎週末○○くんの食堂に通っていた。
そしてある日…。
私は学校で友達と大喧嘩してしまった。
きっかけはささいなことだったが途中からどっちも
引っ込みがつかなくなってしまい、
仲直りの兆しもないままになってしまった。
そうして私は学校帰りに公園で落ち込んでいた。
遥香:はぁ…。
??:あれっ?賀喜さん?
声のする方を見ると制服姿の○○くんがいた。
○○:どうしたの?
遥香:あぁ…。ちょっといろいろあって…。
○○:そうか…。あ!そうだ!今からうちに来ない?
遥香:え?
○○:いいから!行こ!
そういって○○くんは私の手を取り走り出した。
○○:とりあえず、ここに座って待ってて!
○○くんは私を食堂のカウンターに座らせ
厨房に入って料理を始めた。
○○:はい!おまたせ!
そういって○○くんは私の前にエビフライ定食を
出してきた。
○○:俺のおごり!
遥香:え?
○○:落ち込んでる時はおいしいもの食べて
おなかいっぱいになるのが一番!
冷めないうちに食べて食べて!
遥香:…いただきます。
正直食欲はなかったが○○くんが
せっかく作ってくれたのだからと食べ始めた。
このエビフライはいつ食べてもおいしい。
でもなんだろう、いつもよりやさしさを感じる…。
気づけば私は完食していた。
その様子を○○くんはずっと見ていた。
遥香:ごちそうさまでした。
○○:お粗末様でした。夢中でたべてたね。
遥香:うん、実はね…。
私は○○くんに友達と喧嘩してしまったことを話した。
○○:そっか…。そりゃあんだけ落ち込むよね。
遥香:謝っても許してくれないかな…。
○○:でもそれは賀喜さん次第じゃない?
遥香:えっ…。
○○:俺はね?ここで料理作る時いつも願いを
込めながら作ってるんだ。
例えば今日そのエビフライ食べてなんか感じた?
遥香:なんかこう優しいというか…、
励まされてる感じがした。
○○:なら俺の願いは通じたね!
遥香:?
○○:そのエビフライ作る時に願ったのは
元気になってほしいなって願い。
公園であった時の顔がいつも見る
きれいな笑顔じゃなかったからさ。
遥香:(きれいな笑顔///)
○○:だからさ。要はなんでも気持ち次第!
気持ちを込めればきっと通じるから!
遥香:…る。
○○:ん?
遥香:私!ちゃんと謝って仲直りする!
○○:よし!頑張れ!
遥香:うん!今日はありがとね!
○○:やっと笑顔になったね。
遥香:じゃ!またくるね!
○○:お待ちしてます!
そういって○○くんの食堂を出て
そのまま友達のところに行った。
○○くんのアドバイス通りに気持ちを込めて
謝った結果、仲直りが出来た。
私は家に帰った後、○○くんとの会話を思いていた。
その時に気づいたのは…。
私は○○くんが好きだって事…。
さりげない優しさ。店内で接客してる時の笑顔。
料理してる時の真剣な顔。
彼のすべてが愛おしく大好きだ。
しかし、店員と客の関係から一歩踏み出せず
そのまま中学を卒業した。
高校の入学式で彼を見たときは本当にびっくりした。
これはチャンスだと思っていたが1年の頃は違うクラス。なかなか話す機会がなくその年のバレンタインは
渡せずにいた。
2年生になった時同じクラスで嬉しかった。
なるべく話せるときは話して仲良くなろうとした。
そして迎えるバレンタイン。
好きという気持ちを伝えるのもそうだけど、
一番はあの時のことでちゃんとお礼が言いたい。
あれ以来私は周りの人にちゃんと
自分の気持ちを伝えるようにした。
そうしたら日々の生活がより楽しくなった。
だから、言うんだ。
ありがとう。そして、大好きですって。
――
2月13日。
明日はバレンタイン当日。
私はやったこと無いお菓子作りを始めた。
味ももちろんだけど一番重要なのは、
願いを込めること。
それは昔彼が言っていた…。
大好きな彼が言っていた言葉だから。
遥香:で、出来た!
結局納得いく出来になったのは日付が変わる頃だった。
そして迎えた2月14日、バレンタイン当日。
私はいつもより早く登校し、
渡すタイミングを伺っていた。
そろそろ○○くんが来る時間、廊下の方を見ると…。
“○○くん来る頃だよね?”
“私、頑張って〇ディバ買ってきちゃった!”
○○くんにチョコを渡す人達が集まっている。
さすがに朝渡すのはやめておこう…。
その後も授業と授業の合間や昼休みも様子を見たが、
渡しに来る人が多く中々渡せなかった。
結局放課後になっても人でいっぱいだった。
こうなったら“あそこ”で渡すしかない!
私はある場所に向かって全力で走った。
――
○○:あれっ?賀喜さん?
遥香:あっ、お疲れ!
○○:どうしたの?うちの食堂の前で。今日定休日だよ?
遥香:うん…。これ…。
私はチョコの入った箱を○○くんに差し出した。
○○:これって…。
遥香:そのっ…。バレンタインのチョコ…。
○○:ありがとう…。まさかこれって手作り?
遥香:うん…。やっぱりおかしいかな?
プロの料理人に素人が手作りのもの渡すって…。
○○:ううん!そんなことない!嬉しいよ!
ねぇ?今食べてもいい?
遥香:いいけど今日いっぱいもらったんじゃないの?
○○のカバンはもらったチョコでパンパンになっていた。
○○:これは市販のやつだからまだ日持ちするし、
今食べたいのは賀喜さんのだから!!
遥香:うん…。じゃあ召し上がれ…。
○○:それじゃ…いただきます!
○○くんは私のチョコを食べた。
○○:…。
遥香:どう…かな?
○○:おいしいよ…。
遥香:え!?
○○:おいしいよ!とっても美味しい!
○○はいつもの爽やかな笑顔で感想を伝えてくれた。
遥香:よかった~…。
○○:頑張って作ってくれたんだね。
遥香:?
○○:料理はその料理人の顔。
このチョコは賀喜さんのおいしいって
思ってもらいたいって気持ちが詰まってる。
遥香:○○くん…。
○○:普段からお菓子とか作ってるの?
遥香:いや、これが初めて…。
○○:噓!?これはパティシエ目指せるよ!
遥香:そんな大げさな…。
嬉しい…。
いつもは私が○○くんの料理を食べて感想を
伝える側なのに今回は伝えてもらう側。
こんなにも嬉しいんだ…。
遥香:実はね、○○くん。それにはね、
おいしいって気持ち以外にも込めたものがあるの。
伝えるんだ。前に○○くんに教えてもらったみたいに
素直に…。
遥香:まずは感謝の気持ち。
○○:感謝?
遥香:昔私が友達と喧嘩して
落ち込んでた時あったでしょ?
○○:そういえばあったね。
遥香:あの時○○くんに言われた
「気持ちを込める」って事を大事に
生きてきたの。
それからの人生が今までより楽しくなったの。
○○:おおげさだなぁ~
遥香:ううん。今の私がいるのは○○くんのおかげ!
ありがとう!
○○:どういたしまして。
遥香:それともう一つ…。
○○:?
遥香:食堂でみる真剣な顔や爽やかな顔。
学校で友達と遊んでる時の顔。
どの表情も見ていていいな~って思ってた。
その顔を一番近くで見ていたい…。
○○:…。
遥香:だから○○くん…
私はあなたのことが大好きです。
私と付き合ってください!!
○○:…ありがとう。
私はその言葉が聞こえたとき恐る恐る顔を上げた。
そこには今まで見たことないほどの
やさしい顔をした○○くんの顔があった。
○○:よろしくお願いします!
遥香:…嬉しい。
私は気づけば涙を流していた。
すると○○くんが私を抱きしめてくれた。
遥香:ふぇ!?
○○:俺も賀喜さんのことが好き。
うちの食堂に来て食べた後の顔、
いい笑顔で食べてくれるのが本当にうれしかった。
遥香:○○くん…。
○○:だから、その笑顔をもっと近くで見せてください!
遥香:うん!!
――
10年後。。。
私はあのバレンタインで○○に褒められたのが
うれしくてお菓子作りが好きになった。
そうして私の夢はパティシエになった。
そこから必死で勉強して有名店で働いた。
厳しい修行に耐え、海外で賞もとった。
○○の方は高校を卒業した後、食堂でずっと働いていた。
○○は私が修行でくじけそうなときにいつも
励ましてくれていた。
二年前、彼のお父さんが○○に店を継がせるといった。
その時に…。
遥香:○○おめでとう!これで夢に一歩近づいたね、
日本一の食堂にするって!
○○:うん!ありがと遥香!
遥香:よーし!私もまた賞とれるように頑張ろ!
○○:それでなんだけど…。
遥香:ん?
○○:高校卒業して店を継ぐって決めたときに
もう一つ決めたことがあるんだ…。
遥香:なになに?
彼が突然私の前でひざまずいた。
○○:遥香さん、僕と結婚してくれませんか?
遥香:…はい!喜んで!
○○:遥香!
彼は私に抱き着いた。
○○:俺と一緒に日本…いや世界一を目指そ!
遥香:うん!
そういうわけで私と○○は結婚して、
私は今小室食堂ではたらいています。
○○が店を継ぐときに○○のお父さんが
イメージを変えろというので名前が
リストランテ•コムロに変わりましたが。
そこで私はデザートを作っています。
○○は〇シュランガイドで二つ星をとったし、私も海外で賞をいくつかもらった。
そのおかげでお店は大繁盛。忙しい日々を送っています。
――
○○:なぁ、遥香。
遥香:ん?
○○:その…今度一週間店を閉めようかなって思ってる。
遥香:なんで?
○○:付き合ってからこれまでお互い忙して
ろくに旅行とか行けてないでしょ?
今は店の方も軌道に乗ってきたから
一回リフレッシュもかねてどうかな?
遥香:うん!行こ!
○○:よし!決まり!それじゃ早速…。
そういって彼は旅行先を探し始めた。
その顔は無邪気な子供のような顔だった。
○○:ん?どうしたの?
遥香:いや?いい笑顔だなって。
○○:遥香…。
チュッ…。
遥香:…!?
○○:遥香…愛してるよ…。
遥香:私も…愛してる…。
いい料理を食べればいい笑顔になる。
これが私達夫婦のモットー。
そんな私たちはそんな気持ちを込めて
今日もお客様にお料理をお出しします。
Fin
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