狼くんと狼ちゃん
学校の屋上。
ここはすごい静かで、誰かと群れるのが苦手な私にとって居心地のいい場所。
バタンッ🚪
〇〇:ふぁ〜あ…
由依:今日はおそいね。
〇〇:教室で寝てたら昼休みに入ってた。
今あくびをしながら屋上に入ってきたのは
同級生の〇〇。
この学校はいわゆるヤンキー校。
彼も例に漏れずにヤンキー。
〇〇:さてと…
彼は購買で買って来たパンを食べ始めた。
私は少し離れたベンチで弁当を食べ始める。
群れるのが苦手な私が彼と一緒にいるのは
お互い、"一匹狼"だからだ。
--
高一の春…
知り合いのいない環境を望んだ私は
少し離れた高校に進学した。
入った高校は頭はそれほど悪くないが
ヤンキーが多いことで有名だった。
周りの同級生は中学生の頃からの友達や
新しくできた友達同士で会話している。
1人でいたい私は屋上に向かった。
バタンッ🚪
由依:いい景色…
この学校は山の近くにあり、
屋上からの景色は中々のものだった。
由依:ここいい場所かもな…
私以外にここの場所には人がいない…
と思ったけど…
バタンッ🚪
由依:!?
1人の男の子が屋上に入って来た。
〇〇:あれ?こんなとこに人が来ることあるんだ。
由依:まぁね…
〇〇:あんた…1年生?
由依:そう。
〇〇:じゃあ同級生か。
由依:だから何?
〇〇:別に?
こんな学校だと上下関係厳しいからさ。
由依:なるほどね。
〇〇:まぁ人と群れるのは苦手だからさ。
君もでしょ?
由依:えっ?
〇〇:屋上にいるってことは
1人になりたいってことでしょ?
由依:まぁ…
〇〇:俺も基本ここにいると思うけど、
気にしないで。
俺もそっちに絡む気はないからさ。
由依:そう。
その日から彼と私は屋上にいるが、
挨拶程度だけ話し、あとは各々過ごすという
少し奇妙な関係性は1年以上続いた。
--
今日も今日とて屋上に一匹狼が二匹いた。
〇〇:ふぁ〜
由依:いつも思うけど眠そうだね。
〇〇:まぁいろいろな。
というわけで寝るわ。
由依:ん。
そういって彼は寝始めた。
〇〇:zzz…
大きくはないが普通に聞こえるくらいの
寝息を立てながら彼は横で寝ていた。
普通なら気になってしまうのだが、
不思議と嫌じゃない。
なんなら心地いいと思ってる。
最近、この屋上に来てるのはこの景色がいいのか
それとも…
--
週末…
休みの日に街を歩いていると…
ブロロロロ…
一台のバイクが目の前を通り、
バイクショップの前で止まった。
そのライダーがバイクを降り、
ヘルメットを取ると、いつも屋上にいる彼だった。
〇〇:ふぅ…ん?あぁ、小林か。
由依:それ…あんたのバイク?
〇〇:まぁな。
由依:へぇ〜お金あるんだね。
〇〇:まぁここでバイトさせてもらってるから
彼はバイクショップを指差しながらそういった。
由依:それでいつも眠そうなのね。
〇〇:そゆこと。
由依:いいなぁ〜一回乗ってみたい。
〇〇:後ろ乗る?
由依:いいの?
〇〇:今日は暇だからここに来ただけ。
時間はあるよ。
由依:じゃ行こうかな。
〇〇:じゃヘルメット借りてくるわ。
彼はバイクショップに入っていった。
いつもなら行かないけど
不思議とその選択肢が浮かばなかった。
〇〇:お待たせ。ほれ。
彼から渡されたヘルメットを被って
バイクの後ろに乗り込んだ。
〇〇:下にバーがあるからそれに捕まって。
由依:ん。
〇〇:じゃいくぞ。
ブロン、ブーン…
由依:わぁ…
今までとは違う風の感じ方。
スピードは出てるのに怖くない。
目の前にある彼の背中を見るとなんだか落ち着く。
他人といてこんな感情になったのは
初めてだなぁ…
--
彼のバイクに乗せてもらってから数日たった。
またいつものように屋上にいったが、
彼は見当たらなかった。
由依:あれ?あいついないのか…
ガチャン🚪
扉の方を向くと、彼は違う男の子がいた。
△△:えっと…小林さん。
由依:なに?
△△:俺と付き合ってくれない?
由依:は?
△△:見た目がすっごいタイプで
前からいいな〜って思ったから。
由依:ごめん無理。
あなたのことよく知らないし。
人と群れるのが苦手だから。
△△:〇〇とは一緒にいるのにか?
由依:え?
△△:俺よりあいつの方がいいのか?
由依:いいも悪いも彼とはそんなに
親しいってわけでもないから。
向こうも人と群れるの嫌みたいだし。
△△:なぁ〜いいじゃ〜ん。
ガシッ
由依:!?
そいつは私の腕を掴んできた。
△△:一緒にいりゃ楽しいことだって
あるって〜
由依:いやだ!離して!
△△:えへへ〜いいじゃんかよ〜
そいつの顔をみると吐き気がするくらい
気持ち悪い笑顔だった。
△△:なぁ〜一緒にいようぜ〜
怖い…助けて…
〇〇:うるせぇなぁ…
由依:!?
〇〇:ぎゃーぎゃーうるせぇんだよ。
発情期ですか?このやろう。
△△:なっ、お前いたのかよ!
〇〇:別にこいつをどうしようがは
知ったこっちゃない。
だけど困ってる女を見過ごすほど性根は
腐ってないんでね。
△△:やる気か?いっとくが俺はつよいぞ?
この学校でじきに頭張る人間だそ?
〇〇:あっそ。俺そーいうの興味ない。
偉ぶるだけのお山の大将にはね。
△△:くっ!このやろう!!
そいつは彼にむかって殴りかかった。
由依:危ない!!
△△:うぉーーー!!
〇〇:…ふっ笑
スカッ
△△:えっ?
彼はパンチを避けた。
〇〇:そっちからやってきたんだからね?
何されても文句なしね?
ドカッ
△△:ぐっ!?
ボカッ
△△:ぐぁ!
ドカッ!ボカッ!
〇〇:これで次てっぺんなんて…
情けねーなぁ!
ボカッ!
△△:ぐっ…
ドサッ
そいつは倒れた。
〇〇:ゆっくり寝ときな。
寝る子は育つらしーぞ?
△△:くっ…覚えとけ!!
そいつは屋上から出ていった。
由依:あの…ありがとう…
〇〇:別に?俺の昼寝を邪魔されて
むかついただけだから。
由依:喧嘩、強いんだね。
〇〇:中学の頃、やんちゃやってたからな。
由依:この学校のてっぺん取れんじゃない?
〇〇:興味ないね。
変に周りに集まられても迷惑だし。
由依:…ねぇ、またバイク乗せてくれない?
〇〇:え?
由依:なんか風に打たれたい気分。
〇〇:あっそ。わかったよ。
--
〇〇:じゃあいくぞ。
由依:ん。
ギュッ
〇〇:え?
私はこないだ捕まったバーではなく
彼の腰に手を回した。
由依:お願い、こうさせて…
〇〇:…勝手にしろ。
ブロン、ブーン…
〇〇:なぁ?どこ行けばいい?
由依:しばらく走って!
そして景色のいいとこ連れてって!
〇〇:はいよ。
ブーン…
風が気持ちいい…
あいつに迫られた時の恐怖心を
置き去りにしてくれる…
そしてこの背中がすごい落ち着く…
--
ブーン…キキーッ
〇〇:ほれ、着いたぞ。
彼が連れてきてくれたのは
見晴らしのいい海岸だった。
私達はバイクを降り、その辺を歩いた。
〇〇:どうだ?落ち着いたか?
由依:え?
〇〇:さっきのあいつのこと。
やっぱ怖かったんだろ?
震えてたからさ。
由依:うん…。
〇〇:やっぱ人が群れるって面倒だな。
由依:…そしたらなんで私とは一緒にいるの?
〇〇:え?
由依:人と群れるのは嫌いなのに
なんで私とはいてくれるの?
〇〇:いや…なんつーか…
気にならないというか…
ってかお前だってそうだろ?
由依:確かに私も人と一緒にいるのは苦手。
でも不思議とあんたと一緒にいるのは
嫌じゃない…
というかむしろいい…
〇〇:は?
由依:屋上にいるのも、
景色がいいとかそう理由じゃない。
多分、あんたのことが好きなんだと思う。
〇〇:…。
由依:ねぇ…一匹狼同士、付き合わない?
〇〇:一匹狼だったら
付き合わないんじゃない?
由依:狼だって、家族をつくるよ?
〇〇:家族って…結婚する訳でもないし…
由依:とにかく!私と付き合って!
〇〇:…わかったよ。
由依:いいの?
〇〇:俺さ、親父をちっちゃい頃に
亡くしてさ、母親がずっと育ててくれてる。
でもそのせいで周りのやつはバカにしてくる。
だから人とは居たくなかったんだ。
でもお前といる時は
その嫌な感じがしなかった。
多分、それほど心を許してるんだな…
由依:そう…
〇〇:だから俺も一緒にいて欲しい。
由依:うん。一緒にいよう。
それと…
〇〇:?
由依:お前じゃなくて、由依って呼べ。
…〇〇。
〇〇:…由依。
由依:うん。それがいい!
ほら!またツーリング行くよ!
〇〇:わかったよ笑
ブロン、ブーン……
一匹狼…
確かにそれはそれで楽。
でも、いざという時は支えになる人は
必要になる。
今私がしがみついてるこの背中は私を支えてくれる。
そして、彼の腰に回した腕で彼を包み込んであげたい。
人は支え合って出来ている。
ドラマで言ってたけど、今はそれが分かる。
一匹狼は楽だけど寂しい。
もう狼じゃなくて、
1人の女の子として彼の隣に立っていよう。
Fin
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