お嬢様って呼ばないで!!
蓮加:はい。こちらが入館証になります。
私、岩本蓮加はある会社の受付をしている。
そのある会社というのは
私のお父さんが社長を務める会社。
そう私は俗に言う
”社長令嬢”
”お嬢様”
である。
でも私はその肩書が嫌い。
お父さんは元々私を働かせる気は
全くなかったが、
私がどうしても働きたいと言って
ここで働くことになった。
ーー
蓮加:お疲れさまでした。
定時になり、社員通用口から出ると
一台の車が止まる。
??:お嬢様、お待たせいたしました。
その車から降りてドアを開けてくれたのは
私の執事の〇〇。
蓮加:ん。ありがと。
バタン
○○:それでは出発いたします。
執事の○○。
仕事は完璧。人当たりもいい。
この上ないくらいの完璧な男。
その○○は私の幼馴染であり…
私の…初恋の相手。
彼の家系は代々私の家族に仕えている。
彼のお父様も私のお父さんに仕えている。
その関係で小さい頃は
一緒のお屋敷で暮らし、
よく遊んでいた。
小中高とずっと一緒だった。
そんな彼と一回離れたのは
高校卒業の時だった。
ーー
○○:俺は…イギリスに行く。
蓮加:どういう…事?
○○:いい執事になる為。
岩本家の為なんだ。
蓮加:でも日本の大学でも…
○○:いや。一回外の世界を見てみたい。
俺の父さんも同じように留学して
完璧な執事になれたみたいだし。
蓮加:…。
○○:俺の為でもあるけど…。
蓮加の為でもある。わかってくれ。
そういって彼はイギリスに旅立った。
ーー
それから4年、私は大学を卒業して
今の会社に入社。
イギリスから帰ってきた○○は
私の執事になった。
蓮加:お帰り!○○!
○○:…ただいま戻りました。”お嬢様”
蓮加:そんなかしこまらなくていいって!
○○:これからは仕える身。
そんな無礼は許されません。
帰ってきた彼は私を”お嬢様”と呼んだ。
立場上呼ばれても仕方ない。
慣れてるつもりだったけど、○○の声で聴く
その単語は今までで一番聞きたくなかった。
ーー
蓮加:はぁ…。
今日はお見合いの日。
相手はお父さんの会社と同じくらいの
規模の会社の御曹司。
○○:どうされました?
蓮加:今時お見合いって…。
○○:そうはいっても…。
蓮加:結婚はあんまりしたくないしな…。
今のは半分嘘。
結婚はしたい。
でもその相手は○○以外考えられなかった。
○○:このお見合いは会社の都合もありますが
お嬢様の為でもあります。
お父様もお嬢様の幸せを願っております。
蓮加:○○は…どう思ってるの?
○○:えっ!?
蓮加:このお見合いで…蓮加は幸せになれると思う?
○○:…そう、願っております。
そういった○○だったけど、
私の質問に答える時、
ハンドルを握る手に力が入っていたように見えた。
ーー
蓮加父:いや~松本さん!
お待たせいたしました!
松本:いえいえ岩本さん!大丈夫ですよ!
蓮加父:娘の蓮加です!
ほら挨拶!
蓮加:岩本蓮加です。
松本:いや~こらべっぴんさんだ!
こいつが息子の影虎です!
影虎:どうも~!
なんかチャラい。
第一印象はそんな感じだった。
ーー
お互いの親と一緒に食事をした後、
影虎さんと二人でお話してた。
影虎:いや~にしてもいい天気だねぇ~
蓮加:そうですね。
影虎:あ。堅苦しいのもなんだから敬語やめない?
どうせ夫婦になるんだからさ!
蓮加:う、うん…。
影虎:ところで蓮加はさ~今まで彼氏とか居たことあんの?
蓮加:ううん。
影虎:へぇ~こんな可愛いのに
もったいねぇなぁ!
あっはっは!
蓮加:…。
正直、この人は苦手だ。
変に馴れ馴れしいし、
笑い方が馬鹿にされてるみたいだし。
顔は確かにいいかもしれないけど…。
この人と結婚しなきゃいけないのか…。
ーー
お見合いから数日たった。
今日は影虎さんと初デート。
今まで○○以外の男の人に
興味がなかったせいで、
デートには行ったことがない。
友達は初デートはウキウキするものと
言ってたけど、
こんなにも心躍らないことがあるだろうか。
待ち合わせ場所まではいつものように
○○が送ってくれる。
○○:お嬢様。緊張されてます?
蓮加:え…。
○○:深刻な顔をされていたので。
蓮加:うん…。
緊張というよりは行きたくないという感情のほうが強い。
このまま○○とデートだったらなぁ…。
○○:到着いたしました。
そんなことを考えていたら待ち合わせ場所についた。
蓮加:ありがと…。
○○:ではお気をつけて。
お帰りの頃、連絡ください。
蓮加:うん…。行ってきます。
バタン
私が車を降りると○○は行ってしまった。
ブーン…。
それから程なくして一台の高級外車が
目の前に止まり、
景虎さんが降りてきた。
影虎:ごめんごめん!おまたせ!
蓮加:ううん!大丈夫!
影虎:それじゃ乗って!
ーー
それからは定番のデートスポットを回り、
夕食の為、レストランに入った。
影虎:どう?決まった?
蓮加:うん。
影虎:よし。すいませ~ん!
店員さんを呼ぶがピーク時の為、
中々こっちに来れなかった。
影虎:ったく…。
あの!まだ!?
影虎さんが声を荒げて店員さんを呼び出す。
店員:申し訳ございません!
大変お待たせいたしました!
影虎:おせーんだよ!
いつまで待たせるんだよ!
影虎さんは駆け付けた店員さんを
店内中に響く声で怒鳴りつけていた。
そのせいで店内にいる人が
こっちを睨んできて、
恥ずかしい…。
ーー
食事を終えた後、繫華街を歩いていた。
影虎:にしてもあそこの態度最悪だったなぁ~
蓮加もそう思うだろ?
蓮加:えっ…う、うん…。
食事中もずっとお店の悪口や
会社の愚痴などをずっと聞かされた。
この人と一生一緒に
居なきゃいけないのかぁ…。
影虎:そだ!
ちょっと一緒に行きたいところあるんだけど…。
ちょっとついてきて!
ーー
言われるがまま連れてこられたのは…
蓮加:連れて来たかったのって…ここ?
ホテルだった。
影虎:結婚するわけだしさ!
遅かれ早かれそういうことになるんだからさ!
ガシッ
蓮加:!?
影虎さんは気持ち悪い笑顔を
浮かべながら腕を掴んできた。
影虎:なぁなぁいいだろ?
蓮加:いやだっ!
影虎:今更清純派ぶったって
しょうがないって!
蓮加:離してっ!!
いやだ…いやだ…
諦めかけたその時…
??:その手を離していただけませんか?
影虎:あん?
蓮加:○○…。
○○:もう一度言います。
その手を離していただけませんか?
影虎:てめぇは誰だよ!!
○○:申し遅れました。
私は蓮加様の執事でございます。
影虎:はっ。てことは俺にも使えるんだな?
○○:まぁ…このまま順調に事が進めば。
影虎:だったらすっこんでろ!!
○○:ただまだ入籍をしていない。
私がここで警察を呼べばただでは済まないですよ?
影虎:くっ!
そう言われ影虎さんは手を離した。
影虎:執事の分際で…邪魔すんじゃねーよ!!
○○:お嬢様の身の安全を守るのが私の仕事なもので。
影虎:まぁいい。
入籍したらお前は即解雇してやる!!
○○:…果たしてそううまくいくでしょうか?
影虎:はぁ?
○○:勝手ながら少しあなたの事を
調べさせていただきました。
あなた…浮気癖がありますね?
影虎:!?
○○:学生時代、さらに社会人になってからも
複数の女性と関係を持った。
その上、クラブやキャバクラにも
入り浸っていますよね?
影虎:ばっ、それは…。
○○:まぁ、これだけだったら
政略結婚でも
問題無いでしょう。
影虎:ふっ。
○○:ですが。あなたの会社はどうでしょう?
影虎:え?
○○:複数の女性と関係を持った上、
キャバクラに入り浸るとなると
相当のお金が必要になります。
そのお金はどこから来ていますか?
影虎:は?
○○:この資料をご覧ください。
○○は一部の資料を出した。
○○:これはあなたが担当されている
取引先との
お金の流れを示したものと
あなたが送った請求書。
それと実際に必要だった経費の資料です。
影虎:!?
○○:あなたは過去数年間に渡り、
水増し請求を行い
その上澄みを自分の懐に入れた。
その行為がどのような意味があるか…
お嬢様はお分かりになりますか?
蓮加:…横領。
○○:そういうことになります。
影虎:このっ…ただの執事のくせにっ!
この婚約が破談になったらお前のせいだぞ!!
そうなったら…
どうなるのか分かってるのか!?
○○:まぁ…クビ、もしくは
それ以上の処分でしょうね。
影虎:そうだよな!
だからさ!このことは内密にしてくれないか?
もちろん!それ相応の…
○○:はぁ…
どうやら何もわかっていないようですね。
○○は少しずつ影虎さんに近づく。
○○:たしかにこの縁談は
元々両家の利益の為でした。
お互いの子供の意思を無視した上での。
影虎:…。
○○:私は蓮加お嬢様の執事でもあり、
幼馴染でもあり、
お嬢様の幸せを心から願っております。
影虎:だろ?
だから俺と結婚すれば蓮加だって
何不自由なく…。
○○:あなたはそれで幸せでしょうね。
会社から横領したお金を元に外で遊び歩き、
どんなに遅く帰っても
蓮加お嬢様のいる家がある。
ですが、待たされるお嬢様はどう思う?
影虎:は?
○○:お嬢様のご両親はお嬢様が
幼少の頃からご多忙で中々家におられませんでした。
そのため大変寂しい思いをされてました。
それをまた味合わせるのですか?
それで本当に幸せですか?
ガシッ
影虎:!?
○○は影虎さんの胸倉をつかんだ。
○○:お前みたいなクズが蓮加を幸せにできるわけがねぇんだよ。
蓮加:!?
○○の口から久しぶりに私の名前が聞こえた。
彼がイギリスから帰ってきてから
一度も聞かなかったのに…
影虎:ヒィ!?
ウーウー
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
○○:おや。お迎えが来たようですね。
影虎:はぁ!?
さっきの事は通報しないんじゃなかったのか!?
○○:私が黙っているのは
お嬢様を連れて行こうとしたことだけです。
警察には横領のことを資料を添えて
お伝えいたしました。
影虎:くそっ!!
これで破談になって、お前もただじゃ済まないぞ!
○○:そうなりましたら…
スッ
○○:地獄の果てまでついてってやるよ。
影虎:!?
ーー
警察が来て、影虎さんは連れていかれた。
○○:ふぅ…
蓮加:〇〇!!
〇〇:お嬢様!!ご無事ですか!?
蓮加:やだ…
〇〇:はい!?
蓮加:お嬢様って呼ばないで!!
〇〇:!?
蓮加:さっきみたいに名前で呼んでよ…。
〇〇:ですが…
蓮加:産まれた家柄の関係で
お嬢様って呼ばれるのは慣れたつもりでいた…
でも〇〇からは…
好きな人からは名前で呼ばれたいの!!
〇〇:えっ!?
蓮加:私…〇〇がイギリスに行く前から好きだった。
だから大学生の間はずっと寂しかった!!
それに帰ってきたと思ったら
ずっと私のことをお嬢様って呼ぶし…
〇〇:それは…
蓮加:もうあの頃の〇〇じゃない…
そう思ってから今までずっと寂しかった!
〇〇:…
蓮加:ねぇ…あの頃に…戻れない?
一緒に遊んだり、一緒に勉強したり…
お互い、名前で呼び合ってた頃に…。
〇〇:お嬢様…それ以上は…やめて下さい。
それ以上言われたら…
蓮加:え…。
〇〇:俺だって抑えてたものが抑えられなくなるわ!
蓮加:抑えてた…?
〇〇:俺だって蓮加のことがずっと好きだった!
イギリスに行ってる間も…今の今までずっとだ!!
蓮加:嘘…。
〇〇:今回のお見合いの話も聞きたくなかった!
でも仕方ない…俺の産まれた家柄上…。
蓮加:…。
〇〇:あの時ほど自分の運命を恨んだ事はなかった!
でも相手がいい人だったら受け入れるつもりだった。
だからお父様には内緒で調べてた。
そしたら相当のクズだった。
それを知った瞬間、居ても立っても居られないいられなくなった!!
だからこんなことをした!!
蓮加:〇〇…。
〇〇:これで恐らく…
あの家にはいられなくなるだろう。
お父様の意思に背く形になったからな。
蓮加:え…。
〇〇:俺は…
どんなに願っても蓮加とは一緒にいれない。
こういう…運命だから。
でも俺は…蓮加が幸せならそれでいい。
蓮加:いやだ…。
〇〇:俺がいなくても…幸せになれよ。
??:そいつはどうかな?
蓮加:!?
〇〇:お父様…。
蓮父:事情は聞いた。
〇〇:この度は勝手なことをしてしまい、
誠に申し訳ございませんでした。
私はあの家を去ります。
これで責任を取れるとは思っていませんが…
蓮父:いや、その必要はない。
蓮〇:え?
蓮父:実はな?
あのお見合いの後、
私の方にも相手のよくない噂が入ってきてね。
こっちでも調べていたんだが…〇〇君の方が早かったな。
蓮加:そうだったの!?
蓮父:だから遅かれ早かれ、
縁談は断るつもりだったんだよ。
〇〇:左様でしたか…。
蓮父:でもまさか、
2人が両思いとは思わなかったがな笑
〇蓮:///
蓮父:〇〇君の場合は人となりはよくわかってる。
君になら蓮加の事を任せられる。
蓮加:え!?
〇〇:そんな!お嬢様にはもっと相応しい方が…。
蓮父:もう、
お嬢様って呼ばなくていいんじゃないか?
〇〇:しかし…私はただの執事ですし…。
蓮父:そうだな。君には執事をやめてもらう。
蓮加:え!やだよ!そんなの!
蓮父:そのかわり、うちの会社に入ってもらう。
そして私の後を継いで欲しい。
〇〇:え?
蓮父:だから、よろしくな?
ーー
こうして私と〇〇は結ばれた。
お互いの家柄に縛られて…
またその呪縛に抗うことのなかった私達。
それもあって2人の時間を今は大切にしている。
〇〇:ふぅ…
蓮加:〇〇〜!
〇〇:蓮加…どうした?
蓮加:ね!お買い物いこ!!
〇〇:え〜ここのとこバタバタしてたから
今日はゆっくり…
蓮加:こないだもそういって
1日ゴロゴロしてたでしょ!
だから今日は私に付き合って!!
〇〇:はいはい、わかりましたよ。
わがままな"お嬢様"。
蓮加:むぅ…
"お嬢様"って呼ばないで!!
Fin
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