人の〇〇で小説を書く(3)犬の祖先×猫の祖先のキメラ『ペプロキオルス』
ヘスペロキオン×プロアイルルス
(犬の祖先×猫の祖先)
のキメラをリクエストしたら、とても好みな感じな感じの出来上がりだったので、ちょっとした小説を書いてみました
『ペプロキオルス』
エピローグ
「ダメ」
お母さんの言葉は強く、これ以上何を言っても無駄だということが子どもの僕にでもわかった。
「どうして」と聞かなくてもわかったけど、それが僕が唯一続けることのできる言葉だった。
「あのね、ポケモントレーナーはなろうと思ってなるわけじゃないの。伝説のポケモンに導かれてなるものなのよ」
この言葉は友達のケンとミオちゃんも言われていたから、またかとうんざりする。
この〇〇〇タウンは、その昔とてもすごいポケモントレーナーを輩出したことで有名だ。小さな町の中心には彼の銅像が建ち、彼の伝説の偉業の数々が刻まれている。
『ポケモン図鑑の完成、四天王を倒して殿堂入り、悪の軍団を解体』大きな偉業の他にも、全国どこにでも彼に助けられたという人の話は多い。助けてもらった一部は老人で、その息子や娘に話が伝わっていたり、そのポケモントレーナー自体が消息を絶ってしまっているのもあって、彼は伝説のトレーナーとして讃えられていた。
だからかこの町にはトレーナー志望の子供が多い。小さい頃に草むらでポケモンを捕まえ、育て、家族として暮らしている。
「でも、ナオ兄はトレーナーになったじゃないか」
「あの人は特別よ。それこそ伝説のポケモン『ペプロキオルス』に導かれたんじゃないかしら」
早口で言った後、お母さんは「とにかくダメ、それにあなたの友だちはみんなポケモンを持っているのに、あなたはまだ一匹も捕まえてないじゃないの。ほら、そんなにポケモントレーナーになりたいんだったら、草むらでも飛び込んでポケモンの一匹でも捕まえてごらんなさいよ」
言われて僕は身震いする。昔草むらで遊んでいて、ポケモンに攻撃されたことがトラウマになっていて、それから僕は一人では草むらを越えられない。
「出来ないんだったら、馬鹿な夢ばっかり言ってないで、勉強しなさい!」お母さんはこれで終わりと言わんばかりに、オボンの実をナイフで音を立てて二つに分けた。
1.
確かに僕は、まだポケモンを一匹も持っていない。簡単に捕まえられると言われている虫ポケモンすら。
なぜなら僕が襲われたのが虫ポケモンだったからだ。この辺りにいるポケモンのほとんどがノーマルタイプか、虫タイプ、水中に少し水タイプはいるけど、捕まえても食用になることが多い。
手持ちにするにはまず地上でも呼吸ができる個体でないとならず、今のところこの辺りの川にはそんなポケモンはいない。水ポケモンを手持ちにしたとなれば、それはもう自分はそれ以外に何も捕まえられませんというサインなのだ。
しかし例外が一人だけ......。
「おはよーっ! きゃっ」
友達のミオちゃんが胸に抱いているのはコイキング。そのコイキングがビチっと跳ねたのだ。水しぶきが少しかかる。
「あぁ、ごめん」
彼女がポケットから差し出したハンカチを拒み、自分の袖で拭う。別に恥ずかしかったからじゃない。拭いたところで彼女のハンカチにはすでにコイキングの水滴が滲んでいるだろうから。
コイキングはよくピチピチと跳ねる。だからああやって水しぶきを飛ばしてしまうことも少なくない。それによって今日何人に迷惑をかけたかはわからないが、僕が一人目ではないだろう。
「みんなでトレーナーになるって話、進捗どーお?」
僕は首を振る。やっぱりね、と言いながら、彼女は僕の横に座り、「ほら行ってきな!」とコイキングを川へ放った。
「ちゃんと戻ってくるんだよ〜」とは言っているが、本当は心配していないと思う。彼女はここであのコイキングを捕まえた。みんなが虫ポケモンや可愛いノーマルポケモンを手持ちにする中、彼女だけはあのコイキングを大事にした。
コイキングは一応地上でも生きてはいけるが、一緒にボール遊びをしたり、走り回ったりはできない。常に横になってビチビチしているくらいしかないので、魚ポケモンの中でも手持ちにしている人はこの町には彼女だけだ。
定期的に水を与えてやる必要があるし、移動中はモンスターボールに入れる以外では胸に抱えてやらないといけない。他のポケモンならそれでも可愛いが、コイキングはその目と空いた口でなんとも間抜けで様にならない。しかもたまに跳ねて水を飛ばす。以前借りた彼女のハンカチは女の子のものだというのにコイキングの匂いしかしなかった。
遅れてやってきたケンはよほど急いできたのだろう。肩で息をして、額に汗をかいている。ミオちゃんから借りたハンカチで拭いた後、「このハンカチ臭くね?」と普通に言う。彼はそんなやつだ。だか女子から圧倒的に不人気で、ケンと仲良くしていると女子人気が下がるという理由で男子の友人も少ない。
「何言ってるの? 至高の香りでしょ〜!」
ミオちゃんはハンカチをひったくって匂いを嗅ぐ。
「ちょっと変な男の匂いも混じってるけどね」と言って笑った。
「コイキングなんてクソザコポケモンよりはマシだぜ」
「だからあなたは女子から不人気なのよ」
「お前に至っては男女どっちからも不人気だけどな」
「言ったわね!」
「おっやるか? ポケモンバトル!」
「良いわよー!」
二人とも腕をまくりその腕のピンと相手に向けて差し出す。手にはモンスターボール。僕はその間に入って、ボールを下ろさせた。
「はいはい、ポケモンバトルはまた今度ね」
「なんで止めるの!? あいつ私のことバカにしたんだよ!?」
「バカにしたのはお前が先だろ!」
「なにをぉ!」
「なんだとー!?」
殴り合いに発展しそうな二人を宥める。これが僕のいつもの役割だった。
「今日はそんな集まりじゃないでしょ」
確かにそうだな、と溜飲を下げたのは珍しくケンの方だった。ミオちゃんもコイキングが戻ってきたことですっかり気を良くしたようだ。
僕たちが今日集まったのは夏休みの自由研究のためだった。
今回のテーマは『トレーナーは本当に伝説のポケモンに導かれないとなれないのか』
この町でトレーナー志望の子供を諦めさせるときによく聞く言葉をテーマにしようと言い出したのはケンだ。
「なんか腹立つしよ」というのが理由だったが、僕とミオも同意した。
ここ毎日、町のあらゆる伝説にまつわることを調べている。昨日は町にいる伝説のポケモントレーナーのご両親に話を聞いたけど、あんまり家に帰っていなかったのか、小さい頃の思い出とか写真を見せてもらったりとあまりテーマとは関係のない話ばかりだった。最後には帰ってきてほしいと涙をこぼされて、僕たちはなんだか申し訳なく思った。
それで今日は町に一番近い洞窟に行くことになっていた。
洞窟は町の南にある川を渡らなくてはいけない。コイキングが泳げるようなところなので、そこまで凶暴なポケモンがいるわけではなく、泳いで洞窟まではいけそうだ。
問題はその中、フラッシュを使えるポケモンはいないし、懐中電灯だけで入った子どもが帰ってこないという噂もある。小さい町だ実際に消えた子どもがいるわけではないことは分かる。小さい子が無闇に洞窟に行かないようにするための脅しだろう。
しかしその脅しに普通に引っかかるのがケンだ。
「おい、本当に行くのかよ......」
ケンが震えているのは川を泳いで寒かったからではもちろんない。女の子に酷いことを言うことも恐れない彼が唯一恐れるもの、それが暗闇だった。
「びっびりねーケンは」
「なぁんだとぉ!」と怒りつつも足が前に進まないケンを置いて、僕とミオは中に入る。するとしばらくして「待ってくれよぉ」と付いてきた。
中は確かにくらい。返ってくる足音から、そこまで広い感じはしないが入って10歩もしないうちに真っ暗だ。一番後ろにいるケンがびびって前へ後ろへとライトを向けるものだからうっとおしい。
「おいケン、ちょっと......」
「わぁぁっ!」
彼は一匹のズバットが顔の近くを通ったのに驚いて腰を抜かしていた。その声にズバットの方が驚いてさっさと前に行ってしまう。
闇へと消えたズバットを追いかけるようにして前に進んで行くと、そこには石碑があった。
石碑には伝説のポケモン『ペプロキオルス』が二匹掘られている。左のペプロキオルスはポケモンを連れた人間を燃やしていて、右のペプロキオルスはポケモンを連れていない人間と親しげな様子だ。
「なぁんだコレ、ポケモン連れてねぇな」
僕の胸がドキリとした。
言った後で気づいたようでケンはニヤニヤしながらこちらを見て
「お前みたいだな」
黙った僕の代わりにミオちゃんが「そういうこと言わない」と言ってくれる。別に殴られようとしているわけじゃないのに、わざわざ僕とケンの間に両手を広げて大の字になって。
「あなただって虫博士とか言われたら嫌でしょ?」
「お前! それは言うなって言ったろ! なんならポケモンバトルで勝負だ!」
ケンがモンスターボールを取り出した瞬間、ミオちゃんは懐中電灯を切る。その瞬間、ケンはびびって尻もちをついた。暗闇の中でも分かったのは、音の感じと、僕が無意識に音の方向を照らしたからだ。
そこには尻もちをつくケンの他にバタフリーがいた。バタフリーの羽から粉が落ち、それが光に照らされて輝いている。その輝きを分け合うかのように、尻もちをついたケンのそばで彼を見つめながら心配そうに羽ばたいている。
彼がびっくりして尻もちをついた拍子にどこかに当たって出てきてしまったのだろう。
虫博士、ケンは昔そう呼ばれていた。理由は単純、虫ポケモンばかり捕まえていたからだ。
虫ポケモンはこの辺りに多く、捕まえやすいし飼育しやすいこともあって、男の子には人気だった。
ケンも同じように捕まえ、飼育し、ポケモンとの生活を覚えていった。けれど辞める時期が人より一年遅かった。たったそれだけの理由で、虫好きということになり、年齢があがるにつれて興味が薄れ、その気味の悪い造形を嫌うようになるのが普通の子どもたちの中で浮いてしまった。
いじめまではいかなかったが、周りから笑われるのが嫌で、彼は全ての虫ポケモンを野に放った。そうして手持ちのポケモンがない同士、僕とつるむようになった。
でも一ヶ月くらいすると、彼のポケモンは一匹だけ帰ってきた。野に放ったときはキャタピーだったが、トランセルになって戻ってきた。
「見た目がTHE虫って感じじゃないから、仕方ねぇから手持ちにしてやった」とケンは照れくさそうに言っていたが、バタフリーに進化してからも大事にしている。
バタフリーはさきほどのミオちゃん同様、ケンの前に躍り出て臨戦体制だ。
「大丈夫だよ、ケンはいじわるでそう言っているわけじゃないから」
僕が言うと、ミオちゃんは分かった、とだけ言って後ろに下がる。バタフリーは見慣れているとはいえ、虫ポケモンだ。それにキャタピーだった頃とは違って、サイズも結構ある。近い距離で向かい合うと男の僕でも怖い。
「ごめんね」と謝って右手を伸ばす。するとバタフリーは一瞬後ろに下がったものの、敵意がないことをすぐに察したのか、ケンの後ろに隠れた。
ケンは僕の手を取って立ち上がってから、バタフリーをモンスターボールに戻す。
「あっ」ケンは石碑を指差したが、
「さっきはなかった文字が浮かび上がってる!」と言ったのはミオちゃんだった。
「習ってない文字だ、わっかんねぇ」
「そもそもこれ文字なのかな? なんかマークにも見えるけど」
「こんなに横に長いマークっていうのもないだろ、絶対文字だよ文字」
急に石碑に現れたものが文字なのかマークなのかを二人は話し合っていたが、僕にはそれがはっきり理解できた。
「我を起こせる者、我以外に持たぬこと」
「え?」「は?」
二人は言葉は違うが、ポカンとした顔で見ているのは同じだった。
「お前読めるの?」
「うん、だってそう書いてるし」
「すごーい!」
ミオちゃんが僕の手を取ってぴょんぴょん跳ねる。
女の子にそうされると、少し照れ臭くて「ま、まぁ」と目を逸らしてしまう。
「本当にそう書いてあんのか? テキトー言ってんじゃないか?」
とケンは照れている僕に詰め寄るようにして聞いてくる。
「僕にははっきり読めるんだけどなぁ」
「それを証明出来ねぇじゃねぇかよ。だったら俺にはこう見えるぜ。お前たちに資格なし。早くここから出るようにってな」
「それはケンが怖いだけでしょー」とミオちゃんは笑う。
「うるせっ、ともかく俺は帰る、今日は解散だ解散!」ケンは来た道を走って戻っていく。
「ちょっと待ってよ。……あーもう!」ミオちゃんは怒った顔を一瞬見せたが、すぐにいつもの顔に戻って「私、ケンを見てくる。深い洞窟じゃないから、さすがに迷ってはないだろうけど、心配だし」と追いかけていってしまった。
足音が聞こえなくなる。懐中電灯以外に光のない暗闇に一人取り残されると、さすがに怖くなってきた。僕も帰ろうと思ったけど、周りの暗闇のどこから何が出てくるかわからない。草むらよりも見える範囲が狭い。それが怖くて、体が震えて動けない。助けて! 置いていかないで! 声は胸の中でつっかえてうまく出てこない。どうしよう。
僕はついに足の震えが限界を迎えて尻もちをついてしまった。地面は少し湿っていて、気持ち悪い。怖い気持ちと合わさって、さらに怖い気持ちが増える。怖い気持ちに合わせてか、僕の影が伸びていく。
「ん? 影?」
懐中電灯の細い光はまっすぐ前方を指している。それとは違う光が後ろの方から出ているのに気づいた。見ると、石碑の文字が光っていた。
『汝、何も持たぬ者か』
先ほどとは文字は変わっていて、しかも頭の中に直接音声が聞こえてくる。僕は思わず、懐中電灯を投げるようにして地面に置いた。すぐにそういう意味じゃないと気づいて、
「う、うん。僕はポケモンを持っていないよ」
『それはまことか』
文字がまた変わる。気のせいか、先ほどより光が強い。眩しくて思わず腕で目元を隠す。
「うん。家にも僕の手持ちのポケモンはいないよ。かわいそうだからって、母さんも家で飼える小さな手持ちが一匹いるだけ」
正直に言った後でしまった、と思った。これでは石碑はもう答えてくれなくなるかもしれない。しかしその不安の闇を取り払うかのように石碑はさらに輝きを増す。
『汝、我に導かれし者……』
文字だけでなく、壁全体が光って。僕は思い切り目を閉じた。
2.
光が消えたかと思って目を開けると、目の前にはでかい灰色があった。壁にしては柔らかい。それになんだかサラサラしている。
それが毛だと気づいた瞬間、僕は後ずさった。後ろに行けば行くほど、その灰色の全体が見える。
灰色の壁だと思っていたのは、かの伝説のポケモン『ペプロキオルス』だった。
「少年、名はなんと言う」
僕は名前を答えた。名前以外にもペプロキオルスがした質問には全て答えた。だけど大抵は本当に自分以外にポケモンを持っていないのかとか、興味はないかということばかりで、全て答えると安心したように自分のことを語り始めた。
「私はさみしいのだ。いずれ飽きられることが。私は今まで多くの人間に飼われてきた。多くのマスター、今はトレーナーといったか……みな体が滅びるまでそばにいてくれた。だが、誰もが私以外のポケモンもそばに置き、最期を看取るのは私ではなかった。あんなに大切にしてくれたマスターなのに、愛情が私以外にも注がれていたのだと思うと、私はマスターの死をかなしく思えなかった。私はそれがとても苦しかった。長かった私の命ももうすぐ終わる。せめて最後は私だけを旅の共にしてくれるものを探していたのだよ」
「そんなに短い命なの? ……僕の旅が終わるまでに君が死んじゃったら僕は手持ちポケモンなしで一人になっちゃうよ」
「ふ、案ずるでない。短い命というのは私の感覚での話だ。人間でいうとまだ100年以上は残っている。汝を看取るまで生き、それからゆっくりと死を待つ」
ペプロキオルスは言った後でまたもやふ、と笑った。
どうしたのかと尋ねるとペプロキオルスは
「いや、思い出していたのだ。汝の前に来た者のことを。彼はしきりに私を仲間にしたがった。とても輝いていて、ポケモンに愛される性格だというのが一目で分かった。彼も私の命が短いことを知ると、同じように心配してくれた。思えば、今まで私を飼っていたマスターたちも、みんな総じて私より体が弱いにも関わらず、私を労り、心配してくれた。人間とは誰しもが他を労わる美しい心を持っておるのだな」
彼はそう言うと、僕の鼻先まで顔を近づけて舌全体で顔を舐めた。舌は温かいが、まったく湿っていない。干したての布団に包まれているような安心感があった。
「ほら、私をモンスターボールとやらにいれよ」
「あー、それが……」僕はまさか本当にペプロキオルスが手に入るとは思っていなかったから、モンスターボールを持っていなかった。もしそういうことになってもケンやミオちゃんがどうにかしてくれると思っていたからだ。
結局僕はペプロキオルスと二人で町に戻ることになった。
その後の町中の騒ぎ、騒ぎを聞きつけた悪党が町に押し寄せたが返り討ちにした話、トレーナーになることを許してもらえたこと、道中でペプロキオルスがしてくれた思い出話、ケンとミオの二人に道中で再会し、ペプロキオルスが少し拗ねたこと、ミオちゃんのコイキングがギャラドスに進化して悲しんでいたこと、伝説のトレーナーを山で見つけて戦ったが、その後すぐに消えてしまったこと、僕たち三人ともが殿堂入りを果たし、全員が四天王に君臨したこと、定年後は若いトレーナーの指導や、学校の先生、ポケモン大好きクラブの会長を務めたこと、そして約束通り僕の最期をペプロキオルスが看取ってくれたこと、その後僕の石像が建てられたこと、などなどはまた別のお話。