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“実験的プロセス”コーヒーの市場価値と生産のリスク①
こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。
コーヒーの生産において『精製』は重要なプロセスの一つです。
精製とは、収穫したコーヒーチェリーから中の種子を取り除き、乾燥させる工程のこと。この乾燥した種子が、コーヒーの『生豆』として世界中に流通します。
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この工程を経ることで、コーヒーの素材品質を保つだけでなく、特定の風味を強化したり、新しい風味を作り出したりすることができます。
近年、これまで行われてきた伝統的な精製方法から派生・改良された、いわゆる“実験的プロセス”が数多く登場し、コーヒーの生産各国で多くの生産者がこの精製方法を試みています。
今回の記事では、現在のコーヒーシーンで話題を席巻し、注目を浴び続けているその“実験的プロセス”による精製が、果たして消費者側と生産者側でどのように認識され、どのようなギャップがサプライチェーン内で起こっているのかを解説します。
また、コーヒー生産者に与える影響、農園の規模ごとで見える市場格差について、世界中で発信されているリソースを引用しながらまとめていきたいと思います。
(※かなりボリュームのある内容になりましたので、何部かに分けて記事を掲載します。。。)
1)コーヒーの精製とは?
まず、コーヒーの精製について説明いたします。
コーヒーの精製方法は、下記の3種類に分類されます。
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・ナチュラル(Natural Process)
イエメン、エチオピア、ブラジルなど、水へのアクセスが制限されている地域や国ではこのナチュラルプロセスが一般的に採用されている。完熟したチェリーを収穫し選別した後そのままの状態でパティオで乾燥させ、カビが生えないように定期的に攪拌する。チェリーが最適な水分レベル(10%〜12%)に達するまで約1ヶ月間乾燥させる。気候や、乾燥中の管理状態に影響を受けやすい。
・ウォッシュド(Washed Process)
ルワンダやケニアなどアフリカの一部や、中米コロンビアなどで普及している精製方法。果肉除去機(パルパー)を使って果肉を除去した後、発酵槽に漬けて粘液質(ミューシレージ)を発酵、その後大量の水を使って粘液質を洗い流し、乾燥パティオに広げて乾燥させる。大量の水が必要なため、地域によっては不向きな方法だが、欠点豆が出るリスクが少なく、均一性があって質の高いコーヒー豆が生産可能。
・パルプド ナチュラル/ハニー(Pulped Natural/Honey Process)
中米、特にコスタリカで盛んに行われており、パルプド・ナチュラルという名称でブラジルが開発、その後ハニープロセスという名称でコスタリカで定着し、普及していく。
この精製方法は、粘液質は残したまま果肉を除去し、そのまま天日干しされる。ナチュラルよりも乾燥が早く済み(約3週間くらい)、ウォッシュドのように大量の水や発酵槽を必要としないため、近年注目されつつある精製方法である。
コスタリカでは、粘液質を除去する割合によってハニープロセスを区分しており、「ホワイトハニー」「イエローハニー」「レッドハニー」「ブラックハニー」と呼ばれ、後者になるほど粘液質の量が多い。
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これらの精製方法は、上記の各プロセスごとの特徴を踏まえた上で、生産各国・地域の風土特性(テロワール)、生産流通の条件に適した方法で行われています。
コーヒー生産における条件…
・地理(高地と平地の面積の割合)
・天候(降雨時期、雨量)
・生産コスト(精製にかかる管理費、設備維持費、人件費など)
例えば、コーヒー生産量が世界一位のブラジルでは、栽培地域のほとんどが平地のエリアであり、その面積の広さからコーヒーを乾燥する場所を広く確保できること、また年間降雨量の少なさから、非水洗式の“Natural”プロセスがほとんどの地域で取り入れられています。
またアフリカのケニア、南米コロンビアでは、降雨量の多さや標高1500〜2000mという高地での栽培環境にあることから、長期間天日で乾燥を行うには不向きなため、収穫後果肉を除去し水で洗浄する“Washed”プロセスが主に採用されています。
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パルプド ナチュラルはもともとブラジルで行われていましたが、その方法がコスタリカに伝えられ、『ハニープロセス』として各地域で広く取り入れられるようになっていきました。
その契機は、2009年に起きたコスタリカ地震により導入された政府による水の使用規制のためです。
それまでは一般的にウォッシュドプロセスで生産が行われていましたが、規制により水の大量使用が禁止され、そのためコーヒー農家はより少ない水で精製する方法を試さざるを得なくなったのです。
それらのハードルを乗り越え、カップのクオリティや、ハニープロセス自体に大きな可能性が見込まれることから、各生産国でもハニープロセスが取り入れられるようになりました。
今まで『伝統』的な方法として行われてきたコーヒーの精製に、『革新』という要素が共存し始め、コーヒー生産全体の発展へと繋がるきっかけとなりました。
2)精製方法の多様化
近年注目されるプロセスには、主にコーヒーチェリーのミューシレージ(果肉と種子の間にある粘質膜)に含まれる糖分で『発酵』を促す精製アプローチが各国コーヒーシーンの先進的な主なトレンドとして取り上げられています。
代表的なものを挙げると以下のようなプロセスがあります。
・好気性発酵(Aerobic fermentation)
・嫌気性発酵(Anaerobic fermentation)
・二酸化炭素発酵(Carbonic maceration)
・イースト発酵(Yeast fermentation)
・乳酸発酵(Lactic fermentation)
(※各工程については複雑すぎるので割愛…)
これらのプロセスは、コーヒーを普段から好んで飲む方なら一度は目にした名称があるのではないでしょうか?
これらのプロセスはコーヒー以外の業界の製造方法(ワインや日本酒など)から着想を得て、各業界の専門家や、先進国のコーヒー企業からサポートを受けながら開発されてきました。
特定の酵母を添加したり、あるいは炭酸ガスを注入して発酵を促したり…革新的な発想を取り入れられるようになって以降、今でも新たな精製方法が生まれており、その分類派生は多岐に渡ります。
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しかし新たなプロセスが開発されていくにつれ、その複雑さを帯びた内容ゆえに、正しい情報が開示されないままコーヒーが流通してしまい、コーヒー業界ではそれがスペシャルティの定義そのものを揺るがすものだとして度々問題になっていました。
生産者の信頼性を示すため、さらに消費者まで正しい価値のままコーヒーが届けられているかどうか。コーヒー生産における『情報の透明性=トレーサビリティ』の重要性についてより深く認識を改めるようになっていきました。
3)注目を浴びる実験的プロセス
これまで述べてきましたように、スペシャルティコーヒーにとって生産国で行われている実験的な精製プロセスは今時目新しいものではなくなってきました。
品質向上や持続可能な取り組みのため、さらに温暖化や病害虫による被害を抑えるために、このような実験的プロセスへの試みは多くの生産国、コーヒー農園で実施されています。
しかしこの実験的な精製方法が、ここ数年で顕著に増えてきている傾向があります。
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例えば、コロンビアのコーヒー生産で行われている精製プロセスは、2000年代初頭までWashedプロセスが主流でした。
しかし、この20年間でAnaerobic fermentationやCarbonic macerationなどの実験的な製法が国内のコーヒー生産地域のほとんどで実施されています。
コロンビアのAzahar Coffee Companyの品質管理責任者であるJayson Galvis氏によれば、このような傾向が強まっている背景にはいくつかの要因があるといいます。
①ブランド品種の導入
主な要因の 1 つは、Geisha, Mocca, Yellow Bourbon, Sudan Rumeなどのエキゾチックな品種が導入され始めたことでした。
これらの品種は、エチオピアやパナマから持ち込まれたものが多く、品評会で高く評価されたことから生産者はそれらの品種に対して国際市場で差別化できる明確な特徴を持っていることに気づいたのです。
しかし、ウォッシュドなどの従来の精製プロセスだけでは、そのポテンシャルを十分に引き出せないこともわかっていました。
先述したような、ブラジルやコスタリカで開発されたハニープロセスなど人気の精製技術に影響を受け、コロンビアの生産者は特定の品質を強調する目的で、独自の方法を試すようになりました。
もともとコーヒーの生産においてコロンビアのテロワール環境は整っている地域が多く、あらゆる研究の成果により、精製プロファイルの作成に成功し、カップスコアを向上させることができたのです。
②“競技会で通用する”プロセスである
この研究成果が世界に広まるにつれ、コーヒーの競技会に参加するバリスタをはじめ、より多くのプロフェッショナルが他と差をつけ、審査員に感銘を与えるような実験的ロットを求めてコロンビアに足を運ぶようになったのです。
その結果、コロンビアの実験的プロセスのコーヒーは世界のマーケットから脚光を浴びるようになっていきました。
現在、実験的プロセスはエキゾチックな品種だけでなく、伝統的な品種にも使われ、特性の多様化や付加価値の向上に役立てられています。
(生産国で毎年行われるコーヒーのオークション品評会(COE)では、実験的プロセスの評価が高い、いわゆる“競技会でよく見る”精製を実施している農園が1位の評価を得たコーヒーの取引価格は1kgあたり約27000円!)
市場からはかなりの評価を得られ、付加価値がつけば今までにないほどの高価格で取引されるコーヒーが生み出されるため、毎年厳しい環境で手間ひまかけてコーヒーを生産する農家にとっては絶対に取り入れたい精製方法のはずです。
しかし、この実験的プロセスは果たしてすべての農家が利用できるものなのでしょうか?
②へ続きます。
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