コーヒーの欠点豆で野菜を育てる『Defect Soil Project』
こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。
2022年最後の投稿は、 pono farmさんと共同で開始したプロジェクト『Coffee Defect Soil』について。
インスタグラムでは経過報告とともにお知らせをしてきていますが、noteでは改めてプロジェクトの問題提起から目的、そして現在の取り組みまでを詳しく解説します。
まだまだ発展途上のプロジェクトですが、こちらの記事を読んでいただき、これからの成長や我々がイメージする展望などを見て、たくさんの方の興味に触れていただけたらと思います。
1)コーヒーのDefectとは?
このプロジェクトの大きなポイントは、肥料に使うコーヒーは全て『欠点豆=Defect』のみを使用しているという点です。
Defect(ディフェクト)とは、「コーヒーの栽培状況、精製処理、輸送、焙煎の各過程において、品質に悪影響が及んだコーヒー豆の欠陥」です。
抽出の段階でこのDefectが混入すると、どんなに良い品質のコーヒーであっても味わいや風味を大きく損なってしまいます。
収穫・精製処理の段階でほとんどは取り除かれますが完全には除去できないため、消費者に提供されるまでのサプライチェーン全体でこのDefectに対策していかなくてはなりません。
例えば焙煎所では、お客様に提供するカップのクオリティが損なわれないよう、この欠点豆を焙煎前後のタイミングで入念にハンドピックが行われています。
Defectにはさまざまな種類がありますが、生産国や地域によって大きく異なります。
病害虫によるDefectが多い農園もあれば、干ばつや大雨などの気候変動による影響がそのままDefectの発生へと招いてしまっている農園もあり、消費国のコーヒー事業者はDefectごとにコーヒーに及ぼす影響とその原因を種類ごとでしっかりと把握しておくことが大切です。
2)Defectが生み出す大きな問題
品質を大きく損なうDefectは、比較的焙煎後よりもコーヒーの栽培/精製期間中に多く発生します。
その中でも、未成熟や虫食い、過発酵、カビなどはカップクオリティに悪影響を及ぼすだけでなく、生産土壌やコーヒーの木自体にも将来的な生産性や農家への収益にかなりの損失を招いてしまいます。
スペシャルティ規格のコーヒーを生産している小規模農家にとっては、約3〜5ha(東京ドームが約4.6ha)の生産敷地から得られる収量の中からDefectが発生してしまうと、発生してしまった分流通/販売することが難しくなるため、その分収入も少なくなってしまいます。
さらにバイヤー視点では、コーヒーのクオリティ自体がたとえ高品質であっても、Defectが混入している生産地のコーヒーは買い手がつきにくい傾向にあります。
SCAが定めるスペシャルティコーヒーの規格ガイドラインでは、350gの生豆に各Defectの混入点数がいくつまでであるのが望ましいとされていますが、サプライチェーンの構造上、生産背景の状況が消費者まで届きにくいため『Defectの混入=生産環境が劣悪』というネガティブなレッテルが貼られてしまい、ひとつのロット分で農園への信用が失われる、というリスクがあるのです(中には故意にサンプルよりも低品質な生豆を売りつけるケースも事実ありますが…)。
一度買い手がついても、ネガティブなイメージがつくと継続的に購入はされにくい上、リターンがなければDefectに対処するための資金も得られないので、特にコミュニティからの支援が受けられない小規模コーヒー農園はどんどん負のスパイラルに陥ってしまうので、Defectの存在は生産者側からすると消費者側が思う以上に、非常に深刻な問題なのです。
3)マイナスからプラスを生み出す
高品質なコーヒーを生産する小規模農園がDefectの発生を抑えるために我々買い手ができる支援は、継続的にコーヒーを購入し、生産者に投資し続けていくことです。
しかし買ったとしても、Defectは購入した分から取り除くだけ販売量が少なくなってしまうので、インポーターやロースターにとっても当然大きなリスクとなってしまいます。
さらに、ハンドピックなど管理面においてもなかなかの労力が必要となる上に、取り除いたものは何も生み出さずにただ廃棄されるだけ。
僕自身、日本や海外のあらゆるコーヒーショップで働いてきた中で、生産者から消費者までのサプライチェーン全体が抱えているこのリスクを、どうにか少しでも軽減できないかと考えていました。
そんな中見つけたのが、”抽出後のコーヒー殻(ガラ)を肥料にする”という「再利用」を見出した取り組みです。
抽出後のコーヒー殻を発酵させ、肥料に再生し、野菜を育てている取り組みは近年世界各国のコーヒーシーンで多く見られます。
この取り組みと同じように、廃棄されてしまうコーヒーのDefectも肥料に作り替えられないかと考えながらも、なかなか進展せずにいました。
そんな中、[cube]の近所に農園を開拓し、有機栽培で野菜を育てている「pono farm」さんと出会い相談してみたところ、「ぜひ一緒にやってみましょう!」と快くお返事をいただき、“コーヒー欠点豆のみを使用した野菜肥料作り”『Coffee Defect Soil』のプロジェクトがいよいよ始動となりました!
コーヒー殻では肥料を作ることができるけど、果たしてDefectも同じように肥料にすることはできるのか…大きな挑戦が始まりました。
4)『Coffee Defect Soil』スタート!
コーヒーのDefectは焙煎前後でハンドピックし、グラインダーではなくフードプロセッサーで粉砕。
そして2022年7月5日に肥料作りを開始!
コーヒー肥料は嫌気性発酵が4〜5ヶ月、好気性発酵は2〜3週間を予定し観測し始めます。
好気性発酵の方は翌日から早速肥料内温度が44℃まで達し、発酵がスタートし始めました。(夏場は発酵速度が早いそう!)
1週間経った頃には肥料内温度が46.5℃になり、白カビも発生しました。一時は肥料内温度が50℃も越え、ひやひやしたそうです…
7月18日から徐々に発酵温度が下がり始め、21日には室温と同じ29℃にまで下がります。
そして無事発酵期間は終了。ケアが本当に大変そうで、一生懸命管理をしてくださいました。
8月の後半からDefect用の畑の土壌を開拓も開始。野菜を植える前に日光消毒を3週間実施、土壌をふかふかの柔らかい状態にし、酸性土壌値(pH)も適正値に調整していただきました。
9月初旬にレタスの種を撒き、中旬にコーヒー肥料を畑に定植。Defect肥料で野菜の栽培がいよいよスタートです🥬
実は10月19日には農園の方にお邪魔して、レタスの成長具合を見学させていただきました!
レタスの様子は、他の肥料で育てるレタスよりも葉が柔らかいそう!
また、レタス以外にも「もものすけ」という赤かぶにもコーヒーDefect肥料を使ってくださり、こちらは葉がとにかく立派に育ち、実の方も他の肥料より成長が著しい様子でした…!
有機栽培のため虫食いの被害もありましたが、一度も追肥することもなく順調に育ってくれて、無事収穫期を迎えることができました。
・・・
ponoさんの野菜農園を見学したとき、雑草を取り除いたりケアを一生懸命してくださっている姿を見て、2年前グアテマラへコーヒー農園を訪問した時のことを思い出しました。
生産者の日々の生産努力、管理の大変さは小規模ではどの生産物でも同じであり、等しく生産物に心が込められています。
その結晶を受け継ぎ、お客様へ直接お届けする立場にいる以上、そこに込められた想いや背景を、より多くの人へ「体験」としてしっかりと伝えていかなくてはならないと強く感じました。
・・・
コーヒーのDefect肥料で育てられたレタスは味が濃く歯ごたえもしっかりしていて、サラダはもちろん、お肉を巻いてサンチュのようにしたり、具材を挟んでサンドイッチにしたり…いろいろな食べ方を想像してしまうくらい、とても美味しくなっていました。
毎日毎日一生懸命野菜をケアし、美味しく立派に育ててくださったpono farmさん。本当にありがとうございます!!
取り除かれ、廃棄されるだけだったDefectの利益化への可能性を形として見出した、大きな1歩目となりました。
5)プロジェクトのビジョン
今回はレタスを育てることができましたが、今後またいろいろな野菜にも肥料を定植して育てていけたらとも考えてます…
ひとまずDefect肥料によって野菜を美味しく育てられることがわかったことで、今後はさらなる可能性を見出すことができます。
農業の分野では特にまだまだ勉強不足なところが多く、荒削りなビジョンではありますが、このプロジェクトを通じて僕自身はコーヒーのサプライチェーンにとってあらゆるメリットを生み出すことができるのではないかと考えております。
あくまでイメージの範疇ですが、このプロジェクトの可能性については以下のように考えています。
5-1)ロスを無くし、利益を生み出す
これまで廃棄されるだけだったコーヒーの欠点豆。
農家にとってもバイヤーや焙煎業者にとっても、取り除かれる分収益が減るため、Defectの混入率の多い生産地域からの生豆の購入は敬遠されてしまい、農家もバイヤーからの信用が得にくいという取引間で悪循環となる存在でした。
たとえ全体的にみると高品質に生産されているにもかかわらず、Defectの混入によって大きなマイナスを生み出してしまうので、その分を「利益化」させて、まるまるプラスに変えられるのではないかと考えました。
集めたDefectを粉砕し、肥料の材料として販売(または肥料を製造する事業者に提供)。
価格はハンドピックの労力+肥料の相場価格に準じていますが、もしもDefectの肥料を混ぜることである特定の野菜がよく育ち、品質も良くなるのであれば、よりDefectへの価値そのものが高まるのではないかな…なんてイメージまでしています。
肥料については勉強中なので、pono farmさんと一緒にうまく取り組んでいけたらと思います。
5-2)生産者のリスク軽減
Defectへの対策を講じるためには、生産者はあらゆる設備投資や、土壌のケア、適切な栄養分/水分の管理など、我々が想像するよりも多くのコストをかけなければなりません。
小資本でどうにか生計を立てている農家にとっては、Defectの発生はそれだけリスクにもなりますし、どうにか流通できたとしても買い手がつかず、全く利益を得られないケースもあります。
Defectを利益化させることが可能になれば、バイヤーや焙煎業者が抱えるロスの負担も多少軽減され、コーヒーの品質自体が良ければ継続的に購入することで、生産者への投資、将来の保証を提供することとなります。
生産者は、無理な借金を背負うことなくDefect対策を行うことができるので、将来的な安定とリスクの軽減にもつながります。
5-3)雇用の捻出
ハンドピック自体、カフェの営業中や内職などの時間に当てられる程度なので、例えばオーダーの合間のTo Doに組み込んだりすることも可能です。抽出前のピックの手間も省け、より安定したクオリティを提供することができます。
ただしオーダーがひっきりなしに舞いこむ繁忙店には難しいですが…
5-4)プロジェクトの課題
実際にこのプロジェクトをやっていく中で、やはりいくつかの課題も見つかります。
大きくは以下の2点。
①ハンドピックする労力、時間
…焙煎量が多くなるにつれ、ハンドピックする負担が増えていきます。忙しい時間や時期などでは特にそこに割ける時間も限られてしまうので、「小規模焙煎」だからこそ可能な取り組みに限定されてしまいます。
②Defectの消費量と肥料化のスパンの需給バランス
…Defectは焙煎するごとに数量を確保できる一方、肥料に使用する際は全体量のうち一定の割合、さらに肥料化させるにも間が空いてしまうので、Defectの量ばかり増えていってしまいます。
バランス良く供給し、テンポ良く消費するにはそれだけ肥料化の機会を増やす必要があります。(肥料を製造する側との相談が必要…?)
6)今後のプロジェクトの取り組み
以上、プロジェクトのきっかけから今後の展望と課題について記しましたが、読んでいただいた通り、まだまだどのようになっていくかは未知数です。
思い描いたイメージが全く実現できないかもしれないですが、未知数であるということは取り組み方次第でいくらでも工夫できる上に、可能性もどんどん増やせるということ。
いずれにせよ、このプロジェクトがうまくいけばDefectが引き起こす問題が多少解消され、サプライチェーン全体のリスクも軽減されるのではないかと信じています。
そのためにも、pono farmさんとも今後を見据えてどのような試みを行なっていけるをしっかり連携をとり、いろいろなチャレンジをさせていただけたらと思います🔥
また、育った野菜を使って何か美味しいものを作ったり、コラボでイベントに出したり…いろいろワクワクすることもできたらなと!
引き続き今後の進捗などはSNSにて発信していきますが、前項の課題で挙げたように、小規模では難しい点もあるのが現状…なので多くの知識やご意見、アイデアが欲しいところです。
もしこのプロジェクトに興味を持っていただけたら、下記アカウントにて進捗のご確認、またはお気軽にお問合せくださると嬉しいです!
それでは今後の進展をお楽しみに…🍀
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小規模スペシャルティコーヒーショップ【ROUTEMAP COFFEE ROASTERS】
地元千葉県での焙煎所の開業を目指しながら、
千葉市稲毛区にてコーヒースタンド[cube]から
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