見出し画像

コーヒーのサプライチェーン① …[はじめに/サプライチェーンとは?]

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

これまで、グアテマラで起きているマタケスクイントラ先住民とカナダの鉱山会社の抗争背景について記事を作成し、現在何が起きているのかを現地コーヒーサプライヤーからの情報をもとに日本語に翻訳、発信してきました。

それと同時に、コーヒー生産国に関する情報も発信していこうと徐々にデータを集め、精査し下書きまで進めており、今回は「コーヒーのサプライチェーン」というテーマでお話ししていきたいと思っています。

察している方もいるかと思いますが、コーヒーのサプライチェーン構造は他の商品と比べ非常に複雑さを極めており、集めたデータの量もなかなかでした。笑

しかし、コーヒーの生産を理解するには必要不可欠のテーマですので、しっかり記事にまとめ、有益な情報源のひとつになるよう根気よく書いていきます。特にコーヒーの生産事情にアンテナを張っている方は是非お付き合いくださいませ。

一応、今回集めた資料はこちらの記事にて参照します。わからない、わかりにくい点はどうぞご気軽にコメント、メッセージください。


1)はじめに

この情報発信については、以前インスタグラムとnoteで書いてきたように、自分が常々感じていた「日本語と英語の、コーヒーメディアの情報質量の格差」への違和感から、コーヒーの品質や技術面の情報だけでなく、小規模農園の抱える問題、生産国の政策事情、生活環境など「生産者視点の情報」を日本語でももっと共有していきたい、という思いから始めました。

自分自身、情報のインプットも兼ねているので、内容については不安定なところもありそうですが、コーヒーに対する視点が、「品質」「技術」「生産」など、関連する様々な項目を満遍なく見渡せて、コーヒーに取り組むことで何かに還元している意識を持てるような情報をお届けできればと思います。

・・・

【コーヒーのサプライチェーン=生産者から消費者まで、流通ルートに携わる全ての人々へ還元される仕組み】

画像1

コーヒーは生産から1杯のカップになるまで(From seed to Cup)、たくさんの人の手が関わっています。

サプライチェーンを通じて、そこに携わるコーヒー従事者の誰かが良いリアクションを行えば、チェーン全体へ良い影響が広がります。しかし、逆に誰かが意図せずとも、悪影響をそこに与えてしまうと、チェーン内に携わる人たちのうち、弱い立場や不利な取引環境にいる生産者たちに直接響いてしまう仕組みになっているのです。

コーヒー生産国のほとんどが、国のシステムが不安定な発展途上国であり、先進国の支援や協力がなければ成り立たないコーヒー農園が多く存在しています。

特に、資本力の少ない、家族経営の小規模農園はチェーン内で起きたネガティブアクションにはかなり大きな影響を受けてしまいます。例えば、国の政策などで一度流通がストップしたり、設備の整った知名度のある大規模農園ばかりに焦点が当てられるトレンドになってしまうなど、様々な要因からその年のマネーフローが滞ってしまうと、どんなに良い品質のコーヒーを育てていたとしても、その次のシーズンは生産ができないという状況に突如陥ってしまいます。

画像3

さらに、あるデータによると、スペシャルティコーヒーが普及し始めてからコーヒーの流通量が格段に増える一方、コーヒーの栽培をしている両親の仕事を見てきた子供たちは、その過酷な現状を見ながら育っていき、大人になってからはコーヒーを生産する仕事から離れ、高品質なコーヒーの生産量は徐々に減ってきてしまっているそうです。

この事態を防いで行くために、まずはとにかく情報を共有すること。さらに、解決に向けて行動に移せるようデータを集め、意見の交換や議論を交わす環境を、今よりもっと作り出すことが重要であると考えます。

・・・

日本は世界の中でもコーヒー需要が大きく、コーヒーに対する熱量が高い「コーヒー先進国」であります。

画像2

(2019年に行われた「大井町コーヒーフェスティバル」の様子)

海外のバリスタなどによくコーヒーの競技会上位に入賞した日本人バリスタや海外有名店で活躍する日本人バリスタについて尋ねられたり、抽出や焙煎の技術面でもレベルが高く、コーヒーギアや器具なども日本製のものが使われているお店もよく見かけました。日本語で出回っている情報も、「よりコーヒーを美味しくするために」、日々積み重ねてきた先人たちの努力や経験が今では多く共有され、スペシャルティコーヒーの認知もサードウェーブ以降広まってきています。

それに比べ、生産者を取り巻く環境について日本語で書かれた情報はあきらかに少なく、よく見かける内容といえば、新たに開発された発酵精製プロセス、ユニークなフレーバーを生み出すコーヒー、評価されたスコア点数についてなどの情報ばかりです。

家族の生計を立てるために大人たちと混じってコーヒーチェリー摘む仕事を毎日しているせいで学校に行けない子どもの人数や、グアテマラ・マタケスクイントラ地域のコーヒー生産者たちが自分たちのコーヒー生産事業が危機に陥っている、などというような情報は、品質・スキル面に焦点を充てた情報の中に埋もれ、ほとんど共有されていないのです。

・・・

【品質・スキルに集中している熱量を生産背景にも分散させる必要がある】

資本力のある人たちだけが獲得できる利益や競争だけで、コーヒーに携わる人たち全員が報われることは非常に厳しいです。

コーヒーへの情熱が結果としてすでに出ている日本のコーヒーシーンにこそ、その熱量を今よりもっと生産の方にも向けられるようになれば、生産者や彼らを取り巻く生活、環境、そして今後の世界のコーヒー市場の発展に繋がる力が備わっていると思えるのです。

実際、これまでの記事やインスタグラムのストーリーシェア、投稿内容にて、日本のコーヒー業界で働く方や、コーヒー好きな消費者まで、たくさんのリアクションをいただいたことから、コーヒー生産者とそれを取り巻く環境へ、もっと焦点を当てながら、コーヒーと向き合いたい!という人がとても多いように感じました。

私自身、発信力も影響力もない人間ですが、カナダのロースタリーで修行していた頃はコーヒーの生産環境、農家への支援、情報共有の重要性について特に学んできました。農園主と知り合い、農園訪問した時にもたくさん話を聞き、いろいろ見た中で、伝えたいものもたくさんあるし、もっと知らなければならない情報もたくさんあります。

それらを今後伝えていくにはまず、コーヒーのサプライチェーン構造について掘り下げ、コーヒー市場が抱える問題について理解していかなければなりません。

もし可能であれば、この記事で発信したひとつの情報だけで完結するのではなく、さらに共通のトピックを探し、いろいろなデータを見比べた上でこのトピックへの理解を深めていただけたらと思います。


長くなりますが、どうぞお付き合いください。

・・・

2)「サプライチェーン」とは?

長々と綴ってしまいましたが、まずは「サプライチェーン」の意味について。

経営用語として使われており、主に物流におけるキーワードのひとつですが、その定義は以下のようにあります。


【サプライチェーンは調達、製造、販売、消費などの一連の流れ】
私たちが普段目にする商品や製品の多くは、さまざまな原材料や部品などを組み合わせて製造され、小売店等での販売を通じて消費者の手元に届きます。また、それらが農産物や海産物といった一次産品であったとしても、生産者から消費者へ届くまでの間には、いくつかの商流や物流があることが一般的です。このような、商品や製品が消費者の手元に届くまでの、調達、製造、在庫管理、配送、販売、消費といった一連の流れのことをサプライチェーンといいます。


引用元には、コンビニで販売されるおにぎりのサプライチェーンについて解説されています。

〔米農家〕→〔農協(集荷販売業者)〕→〔中食事業者〕→〔小売店(コンビニ)〕→〔消費者〕
【それぞれの役割】
〔農家〕…お米を生産する
〔農協〕…農家からお米を買い取り、中食事業者へ卸販売する
〔中食事業者〕…仕入れたお米を加工・製造する
〔小売店〕…加工されたおにぎりを店頭に並べ販売する



この工程をコーヒーに置き換えると、、、


画像4


〔農園〕→〔精製所・農協〕→〔運送業者〕→〔輸出業者〕→〔商社〕→〔焙煎・加工所〕→〔カフェ・小売店〕→〔消費者〕
【それぞれの役割】
〔農園〕…コーヒーチェリーを育て、収穫する
〔精製所・農協〕…農家からコーヒーチェリーを買い取り、精製(チェリーから果肉を除去する)し、ロットごとに袋詰めして保管する。また、商社と直接取引し販売も行う。
〔運送業者〕…コンテナに積み込まれたコーヒー豆を港まで運ぶ。積み込まれた船は取引先の国まで輸送される
〔商社〕…運び込まれた生豆を保管、ロースターや小売店へ販売する。        〔焙煎・加工所〕…生豆を焙煎、加工する
〔カフェ・小売店〕…焙煎加工されたコーヒー豆を店頭に並べ、消費者へ販売したり抽出して液体としてコーヒーを提供する

というように、農園でコーヒーチェリーが収穫されてから消費者の元に届くまで、非常に多くの工程を間に挟みます。

・・・

上の図と解説はかなりざっくりしたもので、実際には国や農園ごとで、各業者が仲介するかどうかが全く異なります。(自分たちでウォッシングステーションを持ち精製・加工をしたり、直接商社と取引をしたりなど)

この物流の役割ごと…収穫、精製、加工、保管、輸送、焙煎、それぞれに価値が生まれ(バリューチェーン)、コストが上乗せされ、取引され、そしてみなさんの手元へたどり着き消費されていきます。

コーヒー市場における、この取引の流れをサプライチェーンと呼ばれています。

・・・

コーヒーが植民地時代から収穫され始めて以降、様々な変革を経て、いろんな取引方法が実践されています。

長い歴史背景から、その取引の仕組みはかなり複雑で、「農家にしっかり還元されているのか」という倫理観をそれぞれの方法に対し、常に問われ続けてきました。

次回はその取引の歴史と方法について、解説していきます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?