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コーヒーのサプライチェーン④…C-Marketについて[C-Market価格変動の影響/生産者の貧困状況]

こんにちは、ROUTEMAP COFFEE ROASTERSです。

続きましてコーヒーのサプライチェーン④、今回は[C-Market価格変動の影響/生産者の貧困状況]についてです。


3-④)現在のC-Market価格、急激な変動による影響

C-Marketの取引価格は、投資家たちが毎年のコーヒー生産量、収穫量や国ごとの流通状況などの情報から推測し、価格が決定されるため、価格はその時期ごとで非常に変動しやすい傾向にあります。

一方、コーヒーの生産コストはこれまで述べてきたように、人件費を中心に設備投資、輸送費など毎年一定以上の費用がかかっております。

では実際に、2021年7月(記事下書き時点)のC-Marketの取引価格を見てみましょう。


【7月26日時点のコーヒー市場取引価格チャート図】

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(画像引用/C-Price: https://markets.businessinsider.com/commodities/coffee-price

2021年7月現在の価格は、ブラジルの降雨量の減少や、コロンビア、ベトナムなど主要なコーヒー生産国の輸送問題の影響もあり、2011年代以来の高水準2USドル台にまで高騰しています。(記事投稿日8/3は価格は少し下がり、1.73ドルでした。1週間ほどで0.3ドル急降下していました。)


※価格高騰の原因についてはこちらから。コーヒーに携わる方はぜひ読んでほしい記事です。


直近の取引最低価格は2019年の0.87USドルと、たった2年で約1ドル以上の大きな差が発生しています。

この価格の差と変動率は、生産コストの水準が毎シーズン高い生産国にとって非常に大きな影響を与えています。

なぜかというと、この急激な変動率からは生産者たち自身が正確な利益を計算するのは非常に困難であることと、生産におけるリスクを把握できないまま、その年の収穫のシーズンを迎えてしまうからなのです。


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収入が費用を下回った場合、資金力がある農園は銀行や国から融資を受けたりして、次のシーズンに向けて生産体制を整えることは可能です。

しかし、資金力が潤沢でない小規模家族経営の農園は、来シーズンに向けての運営が立ち行かなくなってしまいます。

たとえその土地で最高品質のコーヒーを生産していたとしても、農園を売らなくてはならなかったり、あるいはバナナやアボガドなど、他の農作物を生産する農園に再耕するか、最悪の場合違法の植物…いわゆるドラッグを栽培し、闇市場へ売るか、などという状況に追い込まれてしまうのです。


3-⑤)各国コーヒー小規模農園の貧困状況

世界各国のコーヒー農園の数は、50ha以上の土地を所有する大規模農園が21%、50ha以下の中規模農園が19%、5ha以下の農園が約60%と公表されています。

現在世界で流通されているコーヒーのうち、約60%が、5ha満たない土地を所有する小規模農園から生産されています。(※東京ドームひとつ分の大きさが4.7ha)

先述したとおり、1世帯の家族が生計をたてて行くためには最低3〜5haの規模でコーヒーを生産していかなければなりません。

C-Marketの取引価格の極端な変動は、このような小規模家族経営の農園にとって、コーヒーの生産業で生活する上で、非常に大きな負担を及ぼします。

(グアテマラにて、コーヒーチェリーを収穫する人たち)

ピッカー

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農園に従事している生産者の数は、現在世界各国で約2500万人と言われています。

そのうち5ha以下の小規模農園に従事する生産者は、半分の約1250万人。

これらの人々は主にコーヒー産業が盛んな国に集中し、ほぼ半数はエチオピアで220万人、ウガンダ180万人、インドネシア130万人で占められ、ベトナム、ブルンジ、ケニア、コロンビアにはそれぞれ50万人の生産者がいると言われています。

一方、小規模農園に従事している人数が多くなるごとに、人件費が生産コストに占める割合も、生産国ごとで必然的に高くなっていきます。

しかし、コーヒーが投資商品である限り、C-Marketでは様々な要因で価格変動が急に起こります。高水準な時期が続けば、また別の影響によって、やがて価格は急落する時期を迎えます。


C-Marketのチャートを遡り、その平均価格の水準を見ると、長年1lbあたり1USドル前後(昨年の一時期は1ドル以下)と低水準が続いています。


極端な価格の変動により、生産コストも明確に把握できないまま、収穫されたコーヒーはC-Marketの低水準の価格で取引をされます。

さらに、そこに生産するためのコストを差し引いたら、小規模農家、そして農園で働く人たちの手元に残る利益は一体いくら程になるのでしょうか?

このように、C-Marketの不安定な価格基準で取引をしている生産国、農園は、毎年先行きの見えない苦しい状況にいる中、コーヒーを生産し生計をたてているのです。


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世界の小規模農園に従事する生産者のうち、44%が貧困状態にあり、22%が極度の貧困状態にあります。(貧困統計は世界銀行の消費基準、2011年購買力平価の1.90$/日と3.20$/日に基づく。ホンジュラス、ウガンダ、インドネシアは3.10$/日)少なくとも、約550万人が国際的な貧困ラインにあり、1日平均3.20ドルで生活している状況にあります。

スペシャルティコーヒーが普及し、コーヒーの関心が高まっている今ならいくらでも改善する術が見つかるのではないか、と考えられるかもしれません。

しかし、それには現実問題、生産者自身で解決することが非常に難しい大きな壁が存在しています。


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コーヒーは主に寒暖差のある標高の高い地域で栽培されます。国によって標高に差があるため、農園ごとでコーヒーの品質を見極め、それに見合う精製処理が行われます。


チェリーをそのまま天日干しにして、数日後に果肉を取り除かれる「ナチュラルプロセス」は、安定したクオリティを保つために、人員の確保や、管理面でのコスト負担が大きくかかります。

果肉を除去してから水流で生豆を洗い、乾燥させる「ウォッシュトプロセス」では、人員はナチュラルほど多く確保する必要はなく、さらに毎シーズンで安定した品質を提供ができますが、チェリーを生豆に処理するための初期費用、維持費などのコストがかかります。

トレンドとして「発酵プロセス」に焦点をあてた方法(honey, fermentation, anaerobicなど)で精製処理されているコーヒーもありますが、毎年安定した品質で、安定した生産量を確保するには、ナチュラルプロセス同様それに伴う人件費、設備投資、管理コストがかかります。


資本力のある大規模農園ならば、コーヒーの品質に見合う精製方法、さらに発酵を用いたさらなる試み、品質の向上のために生産ラインに投資を行うことができます。

スペシャルティコーヒーの普及を目的とするならば、このような取り組みは当然とも言えるでしょう。

ですが、小規模農園にとっては、そもそもの収穫量と、C-Market価格を基準にした取引によって得られる利益が少ないため、設備をアップグレードしたり、人材を確保したり、品質を向上させるためのトレーニングを受けることも難しいのです。


高価かつ高品質なコーヒーを生産する大規模農園との資本の差が、スペシャルティコーヒーのトレンドに伴いより大きな壁となってしまい、需要に見合うコーヒーを供給できないまま一向に自力で改善することが厳しくなっていくのです。



3-⑥)「脱コモディティ化」の取引モデル/改善の鍵

生産者の立場にある人たちが自力で改善することが難しいと述べてきましたが、コーヒーのサプライチェーンの構造は非常に大きく、かつ様々な組織同士の力によって成り立っています。

つまり、生産者側ではなく、買い手主導の立場にある消費者側の手によって、改善の方法を見出すことができるのです。


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C-Marketで取引されるコーヒーは、主にインスタントコーヒーやリキッドコーヒー(安価で売られる缶やパックのコーヒー)として販売されています。

数年前からはコンビニで気軽に飲めるようにもなりましたが、そこで提供される、販売価格が1杯あたり100〜200円のコーヒー(=生産地の情報が明確に開示されないもの)は、基本的にC-Market価格で取引が行われています。

一方、スペシャルティコーヒーとしてコーヒーを提供しているカフェのコーヒーの価格は、1杯あたり約500円前後。都心ではもう少し高くて600、700円あたりでしょうか?

なぜこのような価格の差があるのかというと、収穫されたコーヒーが、生産者の元から日本に届くまでの取引のプロセスがC-Marketの基準価格で取引が行われていないからです。

これまで何度も述べてきたように、スペシャルティコーヒーが台頭し、品質重視の生産が求められる中でC-Marketの価格を基準に取引が行われることは、生産コストが見合わないまま生産者への負担が一方的に重くなっていってしまうことになります。

その状況を打破するため、コーヒーの焙煎業者(ロースター)と生産者または地域ごとで農園をまとめる協同組合と直接取引を行う「ダイレクトトレード」という方法。サードウェーブ発祥の地、ポートランドのコーヒーショップから行われ始めました。

「ダイレクトトレード」…ロースターは、農園ごとで収穫されたコーヒーの品質を直接チェックし、品質に見合う価格で取引を行う方法。

この方法ならば、市場価格に左右されず、その土壌や栽培環境、生産者の努力を直接評価できるため、生産者側も対等な利益を獲得できます。


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ダイレクトトレードという定義は明確ではありませんが、生豆を輸入し、ロースターやカフェに卸すインポーター(コーヒーの商社)も、スペシャルティコーヒーには同じような手段で品質をチェックし、評価をつけ直接取引を行っています。

さらに、定められた品質をクリアすることで公正な取引が行える「フェアトレード」という方法もあります。

また、エチオピアなどでは2017年からシステムが改変され、農家はコーヒーチェリーをより高値で買い取ってくれるコーポレイティブ=農協を選択し取引を行うことができます。そこで取引されたコーヒーは、各地域のコーポレイティブユニオン(協同組合)ごとにまとめられ、商社に取引されます。


このように、C-Marketの価格変動の影響を大きく受けるコーヒー農家を貧困から救うため、「脱コモディティ化」に向けてのビジネスモデルが、数年前から徐々に広まり始め、コーヒーのサプライチェーン内で取り組まれています。

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一般的なインスタントコーヒーやリキッドコーヒーなど、加工されて100〜200円くらいの価格で販売されているものは「C-Market価格を基準に取引されたコーヒー」と認識できますが、コーヒーのサプライチェーン構造は非常に複雑に組み込まれているため、チェーン内のどこかで「C-Market価格を基準に取引され、遥かに高い価格で販売する」ブロックが存在しています。

今でも日本はじめコーヒーの消費先進国では、コーヒーの産地情報や、バックグラウンドを開示していないコーヒーが消費量の大きな割合を占めます。


「今抽出されるコーヒーは果たして適性な取引を経て、消費者へ提供されているのか」


消費先進国のコーヒーに対する「透明性」と「倫理観」への意識が、生産者の将来を左右する「鍵」を握っているのです。


【コーヒーのサプライチェーン④まとめ】


○C-Marketの価格は非常に変動しやすく、2021年7月の価格は、生産主要国の生産不良により2ドルにまで高騰。

→価格は投資家たちが生産予測し、情報を集め設定されている。(買い手主導の価格設定)
→生産者は毎年の生産コストが正確に計算できず、急激な価格変動により、日々の生活にまで影響が及んでしまう。

○収入が生産コストを下回ってしまった場合、資本力のない小規模農園は支援を受けることができず、来シーズンの生産が行えなくなってしまう。

○世界に流通されるコーヒーの約60%が、5ha未満農園を所有する小規模農園から生産される。

→1家族がコーヒー生産で生計を立てていくには、約3〜5ha規模の土地でコーヒーを栽培する必要である。                              →C-Marketの低水準、急激な価格変動は、小規模農園の手元に残る利益を少なくさせる

○小規模農園の貧困状態を生産者自身で解決することは非常に困難である。

→C-Market価格の取引では、利益の確保が難しく、大規模農園との資本の差は大きくなるばかりである。                     →設備の投資やトレーニング、人材の確保などの投資ができず、スペシャルティコーヒーのトレンド需要に対応できない。

○消費者側の「脱コモディティ化」の動き

→安価で提供されるコーヒーはどういうプロセスで手元に届いているのか?→ダイレクトトレードやフェアトレードなど、様々なトレードの形を展開していく=「脱コモディティ化」


[コーヒーの生産コスト 参考資料]
UNION HAND-ROASTED COFFEE/Craft Coffee Guru/FELLOW/Perfect Daily Grind☆Examining coffee production costs across Latin America☆What effect does The C-Market have on small coffee Farmer?/Desarrollo Alternativo(第1、2章)/FairTrade International


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