第九話 ダジャレ
「おい白キジ!さっきから何してる?」
「ボスさん!」
「うっ、なんか溝臭いな〜」
「すいません、これには色々と事情がありまして」
「ほれ、ぶつ切りかっぱらってきたから一緒に食うぞ!」
「はい!ありがとうございます!」
2人の微笑ましい光景を眺めていると、師匠がのそのそとやってきた。
「師匠〜!」
相変わらずバサバサの毛並みを保っている。
「おぅ、新入り!」
「師匠!僕、シマさんに新しい名前を頂きました」
「ほぅ。確かにいつまでも新入りって訳にはいかないな。次の新入りがきたらややこしくなるわぃ」
「はい」
「で、なんて名前になったんだ?」
「はい、マーブルです!」
「マーブル!なかなか洒落た名前だな〜。いいじゃないか!」
「はい、気に入っています!」
「ところでシマはどうした?」
「さっきまで一緒だったんですけど……」
縞々模様をした猫は他にもたくさんいて、シマさんを見つけだすのは難しそうであった。
「きっと可愛子ちゃんでも、追っかけてるんだろ」
「?!」
「お前さんと違って玉有りだからな!ははは」
「もう〜師匠!」
「マーブル?だったっけ?」
「はい」
「シマに島案内、してもらったか?」
師匠は薄ら笑いで僕を見つめた。
「?」
「シマと島!かかってるじゃん!」
「それがどうしたんです?」
「え?面白くない?」
「いえ」
「ダジャレもわかんないのか、お前は〜」
「すみません」
「年を取るとな、ダジャレを言うもんなんだ」
「そうなんですか」
「年寄りがダジャレを言ったら笑ってやんなきゃ」
「え?面白くないのにですか?」
「それが礼儀ってもんよ」
「そうなんですか?」
「義務じゃねぇけどな、笑ってくれると、言った方は気持ち良くなるんだ」
「へぇ〜そうなんですか」
「ダジャレはな、笑ってくれる相手がいて初めて成り立つんだ。一人でダジャレ言っててもつまらんだろ……」
「はぁ」
「もういい!」
「……」
「シマに、その……、だから、町の中、案内してもらえたのか?」
「はい!佐伯さん家にも行ったしテレサゾーンにも行きました」
「ウメには……会ったか?」
「はい、シマさんが僕の事友達だって、ウメさんに紹介してくれました!」
「そうか、そうか」
「はい!」
「様子はどうだったかね?」
「絶好調って言っていましたよ」
「そうか……」
「え?」
「ウメはよく反対の言葉を使うからな……」
「そうなんですか?!」
「昔からなんだよ」
「じゃあ、つまり……絶不調、という事ですか?」
「本当のところはわからないがな」
「師匠はウメさんとお友達なんですか?」
「友達というか……まぁ、元カノだな」
「元カノ?!」
「昔の事だ」
「師匠もメス猫を追っかけていたんですね〜」
「追っかけたんじゃなくて、追っかけられてたんだ!」
「そうなんですか〜?」
「おらぁ、島1番のモテ男だったからな!」
「へぇ〜」
「お前、信じてないだろ?」
「そんな事ないですよ〜」
「なんか鼻がやたらピクピクしてるぞ」
「信じてますって〜」
「怪しいな〜」
「それより師匠、シマさんから耳カットの話聞きました」
「おぅ、そうか」
「意識して猫達を見てみると、結構カットされた猫がいるもんですね〜」
「知識を増やすとな、視野が広がるんじゃ」
「なるほど〜」
「お、あいつら今日は2人か?」
師匠が公園に目をやるとボスさんと白キジさんが魚をムシャムシャ食べていた。
「さっき白キジさん、下水講で子猫を救出したんですよ!あと、ボスさんは白キジさんと僕に魚をくれました」
「あいつはいい奴だからな〜」
「ボスさんの事、知ってたんですか?!」
「目をみりゃあどんな猫かわかるわぃ」
「目、ですか?」
「あいつはからかうと面白いから、からかってただけだ」
「そうだったんですか」
「優しい奴は結局優しい奴とくっつくもんなんだよ。類は友を呼ぶって言うだろ?」
「へぇ〜。勉強になります」
「これからいろんな猫に会って、よ〜く観察していりゃあ、自然とわかってくるさ」
「はい!」
「マーブル、それより腹は足りたか?」
「え?あの、そう言われれば……まだ……入ります」
「斎藤さん家行くか」
「あの、お医者さんのですか?」
「朝様子を見に行ったんだが寝ててな。今日まだ一度も挨拶してないからな、ついでにマーブル、お前を紹介できるし、ついて来い」
「はい!」
僕は再び師匠の背中を見ながら後ろを付いて行った。