ルイボスティー
まるで嗜好品のように。
飲み込んだ後に深呼吸をすると、体に巡ったはずのフレーバーが鼻から抜けていき、いい香りがする。
こういった感覚があるから俺は煙草を好んでいるのではないか、ふと思う。
みんなはいつルイボスティーを知ったのだろう。
そもそも知っているのだろうか。
飲んだことはあるのだろうか。
そういった感覚が欠落しているのは、子供の頃からルイボスティーに馴染みがあったからだ。
実家はもちろんのこと、実家から徒歩2分のおじいちゃんの家にも常備してあった。
みんなでいうところのなんだろう。
笑福亭鶴瓶でお馴染みの健康ミネラルむぎ茶?
お〜いお茶?
牛乳?
いつも冷蔵庫を開ければそこにある飲み物が、俺の家では、ルイボスティーだった。
小学生の頃、夏場の朝なんかはガブガブと飲むものだから、すぐになくなって、
「ルイボス作って〜」とよく母親にねだった。
そうすると耐熱性の大きいガラスのポットに、ルイボスティーのティーバッグを3つか4つ入れて熱湯を注いでいく。
ティーバッグから味が滲み出たのを確認した母親は、喉が渇いた俺に急かされると、マグカップに氷をたっぷり入れて、ルイボスティーを注いでくれる。
すると、びっくりした様に氷が音を立てる。
待ちきれない俺は、すかさずガブガブ飲むんだけど、やっぱりまだぬるくて飲んだ気がしない。
少し落ち着いてからもう一度飲むと、今度はたっぷりあったはずの氷がすっかり元気をなくしていて、夏にはちょうどいい温度になっていた。
実家を出るとルイボスティーを飲む機会がなくなった。
ただ最近は、ファミリーマートなんかで安価にルイボスティーを購入することができる。
初めて見つけた時にすごく興奮した覚えがあるけど、友達は不思議がっていた。
名前は聞いたことがある程度で、どうやらあえては選ばないし、口に合わない人もいる様だ。
一方で俺の記憶には強烈に焼き付いている。
それは特別なフレーバーのせいだ。
匂いと記憶は密接に絡み合っている。
夏場はルイボスティーをカラカラの喉に流し込む。そして深く息を吸い込む。
少年の無邪気な幸せを感じると、すぐに鼻から抜けていく。
それがたまらなくいい。