勤務時間外のセクハラ騒動も対応しないといけないか
1 セクハラとは
セクハラの規定が導入されたころは、「セクハラよ」と、ドラマのワンシーンのような言葉が聞かれましたが、最近は、そのような言葉が登場しなくても、後日、「セクハラされました」と公になるケースが増えているようです。
そもそもセクハラとはいかなる行為をさすのか。きちんとインフォメーションはなされているでしょうか。行為そのものは、そのほとんどが男性から女性です。もちろん、女性から男性の行為がセクハラに当たらないということではありません。
セクハラとは何かについて簡潔に述べている裁判例があります。
「職場において、男性の上司が部下の女性に対し、その地位を利用して、女性の意に反する性的言動に出た場合、これがすべて違法と評価されるものではなく・・・」
【金沢セクシャル・ハラスメント事件/名古屋高金沢支判平8.10.30労判707号37頁】
セクハラとは、「意に反する性的言動」なんだと理解しておきましょう。「意に反した性的嫌がらせ」とも言えるでしょう。
2 セクハラのパターンは4つ
セクハラは密閉性の高いハラスメント、つまり、誰もみていない状況下でなされることが多いかと思います。単純に考えて、セクハラにあたるか否かは別としまして、セクハラと言い得る行為が行われる場所や時間は4パターンあります。
➀業務時間内でかつ職場内
➁業務時間外でかつ職場内
➂業務時間内でかつ職場外
④業務時間外でかつ職場外
です。これらは、どのパターンがセクハラにあたるかという意味ではありません。あくまでもセクハラと言い得る行為が発生することが考えられる時間や場所を分けて示したものです。
今回の考えたいのは、職場外や業務時間外で行われた行為でも、セクハラになる場合があるのかという点です。
3 セクハラにあたるか否かを検討する
「意に反する性的言動」から、行為そのものが「意に反している」のかがポイントになります。簡単言いますと、加害者と言い得る者からの行為に対して、相手が嫌がっているのかということです。
小職が行ったセクハラによる精神疾患の労災で、相応のセクハラの証拠資料を添付して請求したことがあります。労働基準監督署は、労災が認定されなかっただけではなく、セクハラにあたらないとの結論だったのです。
精神疾患の労災認定につきましては、労災の機会で触れますが、この企業は労災が通ってほしいとの思いがありました。しかし、そもそもセクハラにあたらないとの結論に、社長以下やや驚いていたようです。
労働基準監督署がセクハラではないとの結論にした理由は簡単です。「加害者からの行為で本人が嫌がっていない」との評価でした。
誰しもが加害行為者にも被害者にもなり得ます。双方の立場で押さえておくといいかと思います。
4 就業時間外・職場外のセクハラの例
業務時間外でかつ職場外の場面の典型は、飲み会のケースが多いのではないかと思いますので、一つ取り上げておきます。
認定された事実によれば以下の行為内容が確認されています。
原告Xは、同僚から歓迎会の参加を募っているとの連絡を受け、歓迎会に参加した。Xは歓迎会の終了後、被告Aからカラオケを懇願されやむなく行った。AはXに自分の隣への着席を命じ、ソファーに押し倒す、Xの上に乗り、顔を覆ったXの手の甲にキスをし、額にもキスをした。さらに、スカートをめくろうとしたため、Aの手を遮り、裾を押さえた。Xは逃げようとした。Aは「何で逃げるの」「そんなんやったらこの会社でやっていかれへんで」などと言った。【大阪セクハラ(S運送会社)事件/大阪地判平10.12.21労判756号26頁】
裁判所は、
わいせつ行為の有無について、「・・・二次会において原告に対してなした一連の行為はいやがらせということができ、原告に対する不法行為に該当するというべきである」
事業の執行につきなされたものかについて、「職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったもの、すなわち、事業の執行につきされたものであると認められる」
と判断しています。
5 いくつかのポイント
まず、原告は、カラオケにやむなく行っている事実があること、強引に臨席にくるように言われたこと、何よりポイントになるのは、原告は手で遮ったり、逃げようとしたりしたことです。
裁判所が性的嫌がらせと認定したのもこうした事実があったからこそと考えられます。
次に、業務上の出来事として、企業は責任を負うのかが問題になります。ポイントは、歓迎会、そのあとのカラオケも、メンバーが職場の者たちという点です。また、本件セクハラの加害者は、職場の上司であったこともポイントになります。
これらから、行為は業務時間外かつ職場外でなされたものとはいえ、職場の上司が行った性的嫌がらせとして認められたと考えられます。
業務の執行につきなされた行為となれば、使用者責任に及びますので、企業としましては、業務内・勤務時間内の行為だけでなく、外も意識し注意指導しておく必要があると言えます。とりわけ、抜ける傾向にあるのが、個人的に少人数で飲みに行くなどの行為の場合です。
たとえ少人数であっても、男女のメンバーともなれば、セクハラ行為が起きないとは限りませんので、普段から従業員に対して注意喚起を怠らないようにしたいものです。
勤務時間外のセクハラ騒動が起きた場合でも、企業としては対応しなければならないということになります。
参考になりましたら幸いです。
【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】