所定労働時間6時間のパートに2時間の残業を命じられるか
今回は、パートタイマーの所定労働時間が決まっている場合に、追加で残業を命じられるかという問題です。実務では、意外とあっさり命令をしているかもしれません。
1 8時間以内なら36協定の必要はない
所定労働時間6時間のパートに2時間の残業をさせたとしても、法定の8時間を超えないため、パート対象にした36協定の締結は必要ありません。
36協定とは、労基法上の法定労働時間を超えて労働させる場合や休日労働をさせる場合に、労働者代表(または労働組合代表)と協定書を締結し、協定届を労働基準監督署に提出しておくものです。
届出しない場合には、法定時間労働等を命じることができないにもかかわず命じたということが違法行為になります。つまり、何がなんでも法定労働時間内で就労させなければならないことを意味します。
36協定を届出しておくと、違反しないという免罰の効果があるわけです。
どこかで36協定の話はまたすることがあるかと思います。
話を戻します。
ただし、6時間の所定労働時間以外の残業を命じて8時間を超える可能性があるのであれば、実際に8時間を超えていないとしても、36協定を締結しておくことをお勧めします。
2 命じる以上は根拠が必要
1のように残業時間が8時間を超えないとしても、残業を命じるには、労働契約上の根拠が必要になります。つまり、残業を命じることが労働契約の内容になっていることが要請されるわけです。
典型的には、就業規則の合理的な規定ということになるでしょう。「合理的」とは、ざっくり言えば、社会の常識に照らして「そうだ」とされるものと理解しておいてください。
3 具体的に根拠になり得るものは
根拠と言われても、漠然としていますので、戸惑ってしまうかもしれません。具体的には、
・パートタイマー労働者の所定労働時間外労働について、どのように規定されているか。
・雇用契約書(または雇入通知書、労働条件明示書など)で、時間外労働についてどのように通知しているか。
これらを検討することになります。
3 就業規則と雇用契約書等の優劣は
確かにこれを知らないと、どちらかに規定してあるからと、根拠ありとやってしまいそうです。
たとえば、就業規則にパートタイマー労働者にも時間外労働を命ずることがあると規定していても、雇用契約書等に、所定労働時間外の労働はないと通知している場合はどうでしょう。
この場合、就業規則の規定よりも個別の雇用契約書等で合意されている「所定労働時間外の労働はない」という内容がパートタイマー労働者に有利な労働条件として優先することになります。
よって、パートタイマー労働者に残業を命令することができないことになります。
では、逆に、就業規則にパートタイマー労働者には時間外労働があるという規定はない。しかし、雇用契約書は、時間外労働を命ずることがあると通知しているという場合ではどうでしょうか。
そもそも、就業規則には残業の規定がないのに雇用契約書で残業のことが通知されていても、就業規則の規定を超えて従業員に不利益になる内容は個別の契約で締結できません。
就業規則の内容が適用されますので、雇用契約書の残業を命ずることがあるとの内容に効力がないということになります。
4 パートタイマー労働者の諸事情への配慮の要請
パートタイマー労働者は、多くの場合、家事、育児、介護などの諸事情と就労を両立したいとのことから短時間労働者(場合によっては週〇日勤務など)として働いている背景にあります。
企業は、この点への配慮が求められることになるのです。従業員の生活上の状況を考慮せずに、一方的に残業命令を発すると、権利濫用として無効になると考えられます。
以上のように、パートタイマー労働者への残業命令は、フルタイムの正社員の場合と評価内容が異なってきますので、注意が必要です。
【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】