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おやじパンクス、恋をする。#095

 また客席に戻って、ビールをちびちび飲んだ。

 酒ってのは、もう何千年も前からあるらしい。

 こんだけテクノロジーが発展して、気持ちよくなる薬がさんざん開発されてるってのに、不思議だよな。

 なんでこんな原始的なドラッグが、いまだにトップシェアを誇ってるんだろう。

 まあ、合法だしどこでも買えるしってことが一番なんだろうけど、仮にマリファナが合法になってどこでも買えるようになったとしても、こと日本でこれほど浸透するこたねえと思うぞ。

 とか、どうでもいいことを考えながら、くだらねえ芸人や会社の社長が飛んだり跳ねたりするのを見ていた。

 いつもの癖で、すぐiPhoneを手に持っちまうんだが、そのたびにハッとして画面を消した。

「ああ、くそ」

 俺は声に出して言った。涼介の腫れた顔や、ボンの照れくさそうな表情が浮かんだ。

「どうしろっつうんだよ」

 俺はまた声に出して言った。

 よく分かんねえけど、誰も居ねえ店の中で、自分の声を出すってのは変に勇気がいる。

 棚の角に頭をぶつけて「痛っ」て思わず漏れちまうそういう声のことじゃなくて、意識的に、わかった上で独り事を言うってのは、何ていうか、ある種の決断みてえなものがいるんだ。

「嵯峨野、か」

 俺はビールをあおって、一瞬取りかけたカシューナッツじゃなくてわざわざ硬いジャイアントコーンを選び直し、奥歯で噛んだ。

 頭をぶん殴られた時にも少し似た、視界が上下するような振動がある。

 そうだよな、ボンの言うとおりだ。

 これはRPGなんだ。

 よし、と言って俺はiPhoneを開き、写真アプリを起動した。

 欲求。

 俺の欲求は、そう、RPGでいうとこのお姫様、彼女の写真を見ることだった。

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LOVE IS [NOT] DEAD. 目次へ

この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ

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