おやじパンクス、恋をする。#160
だから実際、俺の方も、たとえば一人客が三人くらい来て、それぞれに面識がねえケースなんかは、俺が同時に三人は相手できねえわけで、だから客同士を繋げてしまったりもする。
もちろん状況に応じて、だよ?
相性ってのもあるし、あんまりねえけど一人で静かに飲みたい客ってのもいるにはいるからな(俺には理解できねえけど。じゃあ家で飲んでりゃいいじゃんと思うね)。
とにかく、それで客同士が仲良くなって、場が盛り上がって、楽しんで帰ってもらえたなら、それはそれでオッケーだ。
けど客の側は、バーテンがそういう風に気を遣ってくれるか、確信が持てないまま店の扉を開けるんだよな。
特にバーなんて、一見の客に対して露骨に嫌な態度を取る店主ってのもいる。常連と大笑いしながら、初めての客には声どころか視線すら投げない、そんな野郎がさ。
俺はふと、自分はいま、初めてのバーにやって来たのだと想像してみた。
カウンターの中に、架空のバーテンを作り上げて、他に客はいねえ、お互い初見で向かい合ってる場面をイメージする。
それだけで少し、そわそわしてくる。
バーテンはどんな奴なのか、おとなしいのかお喋りなのか、何が好きで何が嫌いなのか、話しかけられるのを待つのかそれとも自分からガンガン行くタイプなのか。
店の佇まいからある程度想像することもできるが、とにかく客にとっちゃ、基本的には出たとこ勝負のコミュニケーションだ。
それって、緊張するよな。
もちろんバーテン側だって多少は緊張するだろうが、客のそれよりやっぱりマシだ。
俺は落ち着かない気分でタバコをふかし、灰皿に押し付けた。すぐに新しいものを取り出して、火をつけた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。