おやじパンクス、恋をする。#125
「どしたよ」タカがライムを絞りながら聞く。
「雄大だ」
「マジ?」
ああ、と頷きながら俺はしばらくその無機質な電子表示を眺めてた。だけどふと、その向こう側で「わけわかんなくなった」雄大が暴れまわってるような感じがして、俺の指はいつの間にか緑色のボタン、つまり応答ボタンを押していた。
「もしもし」
俺は緊張して言ったが、雄大は何も言わない。
「もしもし? 雄大だろ」
「あのう」
のっぺりした雄大の声。起伏がなくて何か変だ。
「なんだ、どうしたよ。何かあったのかよ」
俺の頭のなかで、ベッドの上の梶さんが息を引き取る場面が想像された。まさか梶さん、もう死んじまったのか?
「マサさん、姉さんと親父の関係、知りたがってたじゃないですか」
「は? あ、ああ、まあな。なんだよいきなり」
「今日、親父に聞こうと思ってるんですよ。マサさん、よかったら来ませんか?」
なんつうんだろう、怖い話をするときの感じつうのか、低くてゆっくりとした口調で、雄大は言った。
「お前、何言って……」
「親父は喜んでましたよ。兄貴分ができたって言ったら、挨拶したいから連れて来いって」
兄貴分? 俺が?
戸惑ってる間に雄大は、聞いたことねえ大学病院の名前と病室番号を告げると、じゃあ待ってますからと一方的に言って電話を切った。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。