おやじパンクス、恋をする。#074
「マジかよ、やっぱそうなのかよ」と俺。
「へええ、梶さん、鬼畜だなー」言葉と裏腹に感心したようにカズが言う。いや、元はといえばてめえがヤッてるって言ってたんじゃねえかよ。
とにかく、半分は分かってた事とは言え、感情に素直な俺は、雄大に負けずと劣らずガックリと肩を落として、でっけえため息を付いた。くそう。
「でも……」
雄大が話し始めたので俺は顔を上げた。
「親父と姉さんとの関係は、なんていうか、正しいことではないかもしれないけど、親父は姉さんを大切にしていたし、生活の面倒を見ていたのは勿論ですが、暴力とかも全然なかったし、姉さんも割りに自由に生活していたし、親父が年を食ってからは、そういう事、もなくなってたと思います」
「それはそれで、うまいこといってたってこと?」とカズ。
「そうです。少なくとも端からはそう見えました。だから皆見て見ぬふりができたっていうか。まあ、姉さんがその事に対して傷ついてる様子はなかったから、皆それでいいかと思ってたんじゃないかな」
「でも、ヤッてたのは事実なんだよな」と俺。
「お前そこにこだわり過ぎだろ」とカズ。
「でも、とにかく、さっきも言いましたけど、最近はもう、そういう関係じゃなかった。親父は病気してて、こないだから入院してるし、正直多分そこまで長くはないと思うし、だから何て言うか、もし親父が死んじゃったら、姉さんは……」
「フリーだ」とカズ。
「フリー」俺も思わず繰り返す。
「やったじゃねえか、つうことは、早く梶さんに死んでもらって……」
「そうだ。そうすれば俺は晴れて彼女と……」
「ちょっと」さすがに雄大が怒る。「俺の親父っすよ」
「いや、悪い悪い。でも、お前は何を心配してんだよ。もし梶さんが死んじまったとしても、彼女はフリー、もとい自由になるだけじゃねえか。いや、だけじゃねえかってのも失礼な話だけど」と俺。
「いや、そうなんですけど、そうじゃないことになりそうだから、俺は心配してるんです」
「どういうこと?」とカズ。いつの間にかギターを弾く手は止まっている。
「さっき、ウチの会社が乗っ取られそうだって話したでしょう。それを先導してるのが半年くらい前に入社した嵯峨野って男なんですけど」
「サガノ?」俺は聞き返す。つうかサガノって、なんかどっかで聞いたような……
「はい。で、そいつは明らかに、社長の椅子を狙っているんです。つまり、親父の跡を。それだけじゃない、嵯峨野は、姉さんのことも手に入れようとしてるんです」
「えっ」驚く俺、何? 何何? いまなんつった?
「欲張りな野郎だな〜」のんきに言うカズ。
「手に入れるって、なんだよ」
「いや、そのままの意味です」そう言ってうなだれる雄大。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。