おやじパンクス、恋をする。#070
「だから何だっててめえらが一緒にいるのか、それを説明しろよ」
俺が言うとカズはチラッと後ろを振り返ってから、話し始めた。
「だから、例の話だよ。俺は社長の――つまり俺の親父だけど、社長の秘書のおじさんに、梶さんの状況を調べてもらったわけ。ほら、お前も会ったことあるだろ、美樹本さんって、あの白髪の」
「ああ、あのダンディな人な。執事みてえな」
「そうそう。美樹本さんは昔っからウチで働いてるから、なんだって知ってんだよ。もちろん梶さんのことも、倫ちゃんのこともな」
倫ちゃん、という言葉が出て思わず俺はバカの方を盗み見た。バカは緊張しているのか、それとも何も考えていないのか、ボンヤリとうつむいたままで無反応だ。
「ああ、それで? 会ってくれそうなのか?」
「慌てんなよ。話はそんな単純じゃねえ。美樹本さんがいろいろ分かったってんで話を聞いてみたんだけど」
「うん」
カズはそのジョイントにしか見えねえ細いタバコを吸い込み、ぶはーっと煙を吐く。
「梶さん、ガンなんだってよ」
「ガン? ガンって病気の癌?」
「そう。胃ガンつったっけ」カズがバカに聞いて、バカはうつむいたまま「そうです」と答えた。
そのやりとりが余りに自然だったので思わず流しそうになったが、俺は何か重要なことを忘れてる気がして、記憶を探った。
「あ、そうか」俺は言った。
「息子みたいなもんって、コイツ、梶さんの……」
「そうだよ。彼は梶さんの跡取り息子さ。まあ、例によって血のつながりはねえが、養子に入っているから、苗字も梶だ。梶、なんだっけ」
「雄大です。梶雄大」
「そうそう、ユウダイ。で、その親父さんであの梶商事の大ボスである梶さんは胃ガンで先が長くねえ。だけど、梶商事の業績は最近右肩上がりなんだと」
「ちょ、ちょっと待てよ、何だかよく分からねえ」と俺。
コイツが梶さんの跡取り息子で、梶さんは胃ガンで、でも業績は右肩上がり? ドカドカと情報が投げ込まれて理解が追いつかない。
「もうちょっと順を追って話してくれよ。俺は何も知らねえんだぞ」
「順を追って、つってもなあ。まあとにかく、うちの美樹本さんは、梶さんが病気だってことはだいぶ前から知ってたらしい。で、そのせいかは分かんねえけど、ちょっと前まで会社の売上はよくなかったんだと」
「会社っつうのは、その、梶さんの」
「そう。梶商事な。ちなみに今は金貸しじゃなくて不動産の売買をやってるんだと。とにかく少し前まで、梶商事はあんまりいい状態じゃないって噂が流れてた」
「ふむ、なるほど」
「俺の親父も昔のよしみで仕事を振ったりとかもしてたらしいんだけど、それじゃ追いつかないくらいだったみたいだな。梶さんの身体の調子も悪くなっていって、ここ一二年は特に、親交もあんまなかったんだと。ここまでオーケー?」
「あ、ああ、オーケー」俺は答える。いやオーケーてなんだよ、普通に言えよ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。