おやじパンクス、恋をする。#101
「みたいだな、珍しいかどうかは知らねえけど」
「珍しいよ。こないだここに来たときも、私は酔っ払ったりしなかった」
「ああ、そうだよな」
彼女はくっくっくと笑った。
「マサ」とチラリと俺を見上げる。
ああ、くそ。と俺は思った。
「なんだよ」
「こないだは、楽しかった」
「そうか。そりゃよかった」
「これ食べていい?」
彼女は言いながら、俺がカウンターに置きっぱにしてたミックスナッツに手を伸ばして、ひどく丁寧な手つきで、ピーナッツか何かを口に入れた。小動物みてえに、もぐもぐと口を動かす。
まだ乾いてない髪が束を作って頬に張り付いている。濡れたグレイのパーカーが肩からずり落ちて、白いキャミソールが顕になっている。
ああ、くそ。
俺はビールをあおる。ジョッキはすぐに空になった。同じグラスをサーバーに突っ込んで、迷いなくいっぱいまで注ぐ。
「あ、こりゃ自腹だからよ」
俺が一応言うと、彼女は一瞬きょとんとしたが、やがて嬉しそうに笑った。
「いや、いいよ。おごるよ。ていうかそういうとこ、変わってないね」
「なんだよそれ」
「そういう、気遣いなとこ」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。