おやじパンクス、恋をする。#164
例の「祝勝会」は、なかなか開催されなかった。
明日か明後日、みたいな話だったが、言い出しっぺの涼介に急に仕事が入ったり、ボンが風邪ひいて寝込んだり、なんだかんだと延び延びになっていた。
彼女ともなかなか会えなかった。それは、彼女が心変わりしたから――つうわけではなく、他でもない梶さんの様態がよくなかったからだ。
彼女は毎日病院に行って梶さんの世話をした。それでも、俺が仕事に入る前の時間をみはからって毎日電話をくれた。梶さんのことを心配しながら、俺のことも心配してくれていた。
あんまり飲み過ぎないでとか、ちゃんと睡眠を取るようにとか、まるで母親みたいな言い方が妙に嬉しかった。けど、彼女の声からは疲れが滲んでいて、次いつ会える? そういうことを言ってはいけないような感じだった。
俺はというと、いわゆる「ブルーな状態」ってのが続いていたが、こないだ自分の甘さみたいなもの、自己肯定感いっぱいの恵まれた状態を少し客観的に理解したからだろう、ちゃんと店は開けたし、掃除もきちんとしたし、それに、来てくれる客に楽しんでもらえるよう、俺なりに努力して過ごした。
でも難しいもんで、意識してんのが分かっちまうんだろうな、俺の態度に違和感を覚える客も少なくなく、「なんか変」とか、「いつものマサさんと違う」とか俺の半分くらしか生きてねえ小娘に言われたり、涼介んとこのバンドのグルーピー(こないだボンのトータル前でたむろってた若いパンクス達だ)には「マサさん、もっとはみ出していきましょうよ」とかわけ分かんねえ説教をされたりした。
俺は不器用な人間なんだろう。心と顔が直結してるっつうか、顔で笑って心で泣いて、みたいな芸当ができやしない。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。