おやじパンクス、恋をする。#046
「69。シックスティナイン? どういう意味?」
彼女はそう言って肩をすくめる。なんかホントに外人みてえだ。つうかマジでハーフとかなのかな。
「シックスナインだよ、男と女が舐め合うアレだよ」涼介がゲヘヘと笑うが、彼女も彼女で「ああ、アレね」と恥ずかしがるどころか問題の答えが分かった小学生みたいにパッと顔を明るくする。ああアレね、じゃねえよまったく。
隣にある割と高級な居酒屋から年配の夫婦が出てきて、俺たちを見て顔をひきつらせた。まあ、“リアル北斗の拳”みてえな俺たちの風貌に驚いたんだろう。旦那の方は白いポロシャツをきっちりパンツの中に仕舞っているような真面目な感じで、奥さんは昭和を思わせる花柄のワンピースで格好はそれなりに派手だったが、ガリガリに痩せていて骨格標本みてえだった。
そそくさと離れていく二人の後姿を見送りながら涼介が「ああいう夫婦も、シックスナインするのかな」とか言って、彼女が「当たり前じゃない、むしろああいうタイプのが好きモノだったりするのよ」と答えたのを聞いて、よくわかんねえけど俺はこの日店を貸切にすることを決めた。
俺は一旦店内に入ってコピー用紙を持ってくると、サインペンで「本日貸切」とデカデカと書いて、扉の外に貼りつけた。よしよしオッケーと店に入ろうとしたが、よく考えてみたら、ウチに集まる客たちが、こんな言いつけをおとなしく守るとは思えねえ。
いきなり全裸になったり、頭からテキーラ被ったり、ウコンの顆粒をストローで鼻から吸ったり、そういうことばかりしやがるバカどもだ。貸切とは何事だコノヤロウつって、ドカドカ入り込んでくるに違いねえ。
そこで俺はもう一枚紙を持ってくると、「本日閉店」に書き換えて、貼り直した。で、皆を店内に入れると、ドアの鍵をキッチリとかけた。
うーん、これでもまだ甘い気がするが、まあ、いいか。
だが、店はカウンターだけの小さいもんで、よく考えれば、涼介タカボンと彼女が座ったら、開いてるのはもう三席だけ。そもそも貸切みてえなもんなんだった。
俺はカウンターの中に入り、スリープ状態にしてあるパソコンを立ち上げると、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのアルバムを再生した。とりあえずはビールを人数分、凍ったジョッキに注いでドンドンドンってカウンターに置いた。
まったく、俺も含めてだけどよく飲むぜ。まあ、でも今日はとびきりに飲みたい気分だった。そんな俺の気持ちを代弁するようにボンが「三十年ぶりの再会に」と言い、俺たちは高々とジョッキを掲げて乾杯した。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。