おやじパンクス、恋をする。#077
カズと雄大が店に来てから数日。何をどうすればいいのか分かんねえまま、時間は過ぎていった。
だんだんとあの話にリアリティがなくなっていくっつうか……いや、そもそもリアリティなんて最初からなかったんだよな。
俺の生活には今まで、彼女も、雄大も、ましてや梶商事なんて入ってなかった。後ろのふたつに関しちゃその存在すら知らなかったし。
いや、彼女のことだって同じようなもんだ。
俺の現実はずっと、カズ涼介タカボン、そして店に来るイカれた野郎たちとの時間で占められていたわけでさ。
正直、正直言えば、だぜ? 俺はこのまま、全部無かったことにして終わりにしようとも思ってた。
いや、終わりにしようっていう「意思」すらなかったのかもしれねえ。
男と女の関係が自然消滅するみてえに、問題から目を逸らして、静かにしていれば全部なくなるだろうって、そういう感じでさ。
情けねえと言われれば返す言葉もねえが、実際のとこ、唯一のモチベーションだった彼女に対する気持ちも、彼女と再会したあの日をピークにして、少しずつ少しずつ、チンポが萎えるみてえに落ち込んでいっていた。
何しろ、梶さんのガンとか、梶さんと彼女の不透明な関係とか、それに嵯峨野って奴のこととか、会社の経営がどうのって事とか……いつの間にか話は複雑になってきてて、よくわからねえ。
だって、どうしろっていうんだよ。
俺は一介のバーテンダー、いや、面倒臭えカクテルとか頼まれたら「嫌だ」つって断っちまうんだから、バーテンダーですらねえな。
それ以下、四十代になってもこんな格好してる、大人になれねえ悪ガキさ。つうか、ガキの頃は勉強ばっかの優等生だったわけだから、むしろあの頃より退化してるかもしれねえ。ガキ以下のガキになっちまったバカ野郎さ。
そんな俺に、何ができるっていうんだよ。
俺は何気なく、iPhoneに残った写真を表示する。そしてそっと、削除のボタンを押そうとする。
そう、実際のとこ、俺と彼女との繋がりはこの写真一枚だけだ。
これさえ消しちまえば、全部なかったことにできる。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。