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おやじパンクス、恋をする。#073
「なんだよ、どういうことだって言うから、要約してやったのに」
「ああ、もう、バカ。そういうことじゃねえよ。俺の言いてえのは、そういう事情は俺には関係ねえだろって事だよ」
「うわあ、冷たい」とカズ。
「そうですよ、冷たいですよ」と雄大も乗っかる。いやいやちょっと待て、お前にそんな馴れ馴れしくされる筋合いはねえ。
俺は慌てて言う。
「いやだってよ、大変だとは思うよ? 胃ガンっつうのも、会社がうまくいかねえのも、跡取り息子がイケてねえってのも、梶さん気の毒だ。だけど、そんなの俺がどうこうできる話じゃねえじゃねえか。会社勤めなんてほとんどしたことねえし、ましてや、ガンを治す事もできえねえ」
言いながら深く納得する俺。まさにその通りだ。俺がどう思うに関係なく、俺にはどうすることもできねえ。つうかそもそも関係がねえ。
だけど、カズは俺の答えに納得する素振りを見せず、「考えてもみろよ」と諭すように続ける。
「な? 梶さんつうのは、お前みてえなチンピラがいきなり会いてえつって会えるような人じゃねえんだ。だけど、跡取り息子が連れてきた、会社の立て直しに一肌脱いでくれるっていう奴なら、それなりの待遇で話を聞いてくれるはずだ。ギブアンドテイクだよ。そもそもいきなりノコノコ出かけて行って彼女を下さいだなんて、お前そんな虫のいい話が通用するとでも思ってんのかよ。何かをもらうつもりなら、何かを与えなきゃな」
うまいことまとめたつもりなのか、カズは目を閉じてうんうんと頷いた。俺はその態度を突っ込みたくて仕方がなかったけど、その一方でハッとした。そうだよ、そもそもそこを明らかにしねえことには始まらねえよ。
「よお、雄大くんよ、それで、彼女と梶さんってのは、どういう関係なの?」
俺の言葉の意味が分からないのか、あるいは気分を害したのか、雄大は眉間にシワを寄せて俺を見上げた。そしてすぐに視線を逸らし、ほとんど聞こえないような声でブツブツと何かを言った。
「は? 何? 何て言った?」
雄大はキッと俺の方を向くと――やっぱり怒ってたみたいだ――吐き捨てるように一言、「知りませんよ」と言い放った。
「知らない? 知らないって、どういうこと?」
「知らないもんは、知らないんです」
「ヤッてんの?」
俺の鋭い切り込みに雄大はぽかんと口を開けて、固まった。カズがぶははと笑って俺を見る。俺は肩をすくめてみせる。いや、だってそこ聞かねえと。
けど、雄大は何も言わず、その顔のままゆっくりと俯いていった。それはどこまでもどこまでも落ちていって、やがては鼻先がカウンターにくっつくんじゃねえかってとこまで行った。
自分で切り込んどいてなんだけど、俺はその反応にひどく傷ついた。だって、もう、ファイナルアンサーだろこれ。間違いねえ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。