おやじパンクス、恋をする。#168
「はあ? なんで」
「なんでだろうな、俺にもよく分かんねえけど、彼女、梶パパの調子が悪いってんで、病院に行きっぱなしで。何か疲れてんだよ」
「ああ、そりゃ大変だろうな」
「ああ、大変そうなんだよ」
「で、なんで無視すんだよ」
「だから、なんつうか、疲れてる声とか、あんま聞きたくねえだろ」
驚くべき正直さだ。俺は自分から出たその言葉に引いた。でも、多分、それが本心なんだ。
だけどさらに驚くべきことに、普通の人間ならドン引きして然るべきなその暴言を、タカはあっさりと受け入れた。
「ああ、あんま聞きたくないな」
「あれ、分かる?」
「そりゃ分かるよ」
「そうか」
「ああ」
それから俺らはいつもみたいに、どうでもいい話をあーだこーだして、そのうちまたあのバーガー屋で飯でも食おうぜつって電話を切った。
そのままiPhoneを操作して彼女にかけた。彼女は思いの外すぐに出て、やっぱり疲れの滲んだ声だったけど、「会いたいんだ。今すぐ」と俺は言った。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。