おやじパンクス、恋をする。#136
「なあ雄大。お前は、姉さんにどうなって欲しいんだよ」
「何言って……」
「俺に、どうして欲しいんだよ」
言いながら、もし雄大が、姉さんに近づかないで欲しいと言ったら、どうするつもりなのかと考えた。答えは意外にも、すぐに出た。
俺は多分、その通りにする。
それで雄大が落ち着いて、それで彼女が安心できるなら、その通りにする。
彼女が、好きだから。
それはもう、前提だった。前提だから、それ自体を、考えなくなってしまう。
俺は多分、彼女のことが、本当に好きになったのだ。
「俺は……」
雄大はそう言ったっきり、黙ってしまった。
こいつはこいつで、彼女のことが本当に好きなんだろう。
だけどそれは、俺の彼女に対するそれとは別の種類のものだ。多分。
どれだけ待っても、雄大は口を開こうとしなかった。
「じゃあ、行くわ」
俺は灰皿の頭の、ハエたたきみてえな網にタバコを擦りつけ、立ち上がった。
雄大は困ったように、そして怒ったように、だがやっぱり黙ってた。
俺は構わず歩き出した、病院を背にして、バス停に向かって。
雄大の声が追っかけてくることはなかった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。