おやじパンクス、恋をする。#104
「私は思ってたよ、これからも友達だと思ってていいって、勝手に納得して。キミとはもう会えないけど、あのレストランにも来ないけど、私がキミと友達だって思うことは、別にダメじゃないって」
「……」
「でも、人間って嫌だね。いつの間にかキミのことを、忘れていった。それがいつだったのか、キミが転校してから何年後だったのか、何ヶ月後だったのか、もしかしてほんの数日で忘れたのかもしれない。それすら分からない。こないだ突然訪ねてきたとき、私はものすごく久しぶりに、キミのことを思い出したんだ」
俺は彼女が泣き始めるのではないかと思った。
けど、実際の所、泣きそうになってたのは俺の方だった。彼女は泣いたりせずに、彼女らしい豪快な感じでビールを煽ると、「涼介、大丈夫?」と突然話を変えた。
「……ああ、大したことねえよ」
「よかった。でもウチの名誉のために言っとくと、手出してきたのはあいつが先だよ。もう勝負はついてるのに、何度も向かってきてさ。こっちのスタッフだっていい迷惑だよ」
俺は吹き出した。
「ああ、だろうなとは思ってたけどな。涼介らしいぜ」
「一時は警察沙汰になりそうだったんだから。私がそれを止めたの。感謝してもらいたいくらいよ」
「ああ、悪かったな。感謝してるよ」
「どうだか」
彼女は細い指の先でカシューナッツをつまんで、口に放り込む。
「けど、涼介のバカが暴れたのは、元はといえばキミのせいだ」
俺が言うと彼女は一瞬怒ったように目を見開いたが、やがて俯いて黙ってしまった。
「何がどうなってんだよ」俺は言った。独り事みたいに。ある種の覚悟を持って。
彼女はビールをグビグビっと飲んで、「あんたには関係ない」みたいなことを小さな声で呟いた。
俺は何も言わずにジョッキを空にして、今度はロックグラスに氷を落とすと、バーボンを注いだ。
関係ない、か。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。