おやじパンクス、恋をする。#049
目を覚ました時、俺は店に一人だった。
俺はカウンターの中のステンレス製の作業台にうつ伏して眠っていて、ハッと気がついて顔を上げると、つけっぱなしのクーラーに冷やされた身体がギシギシと傷んだ。二日酔いっていうかまだ全然酔っ払ってる最中で、寝起きってこともあって視界がぼやけやがる。
いつもの癖でタバコを咥えて火をつけ、iPhoneを手に取る。
ロックを外すといくつかの着信があったが、誰からのものかを確認する気も起きなくて、ただ今がもう朝の十時過ぎだってことにショックとも安心とも言えねえ変な感覚を覚えながら、とりあえず冷たい水をグラスに注いで一気に煽った。
うりゃっつって勢いをつけて立ち上がる。頭のなかでアルコールがどろりと転がって、フラフラする。
カウンターは明らかに誰かによって片付けられていて、彼女が座っていた席には、畳んだ一万円札と一枚のフライヤーが置かれてあった。
フライヤーはこの店に置かれてあったライブイベントのもので、イベントロゴと出演バンド名の他には何も書かれていない。その薄いベージュの余白に彼女からのメッセージが書かれてあった。鏡面加工というのか、テカリのある印刷だったから、ボールペンのインクがうまく乗らずに所々が途切れている。
【久しぶりに楽しかった。寝ちゃったから帰ります。またね。倫子】
そうか、帰っちまったのか。
俺はため息をついた。なんの溜息だバカ。
そら帰るよ。
俺が目覚めるまでニコニコ待ってくれてるとでも思ったか。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。