おやじパンクス、恋をする。#167
彼女に会いたくてたまらなかった。
電話で話してたら、会いたいって言葉が勝手に出てしまうと思った。
だから電話に出なかった?
いや、そうじゃない。
俺はiPhoneの画面に彼女の名前を認めた時、なんつうか、彼女の疲れた声を聞きたくないと思ったんだ。
すぐに折り返すべきだと思いつつ、なんでか俺の中でそれに抵抗するものがあって、iPhoneを持ち着信履歴を表示したものの、俺の指はなんでか「りんこ」じゃなくその五行ぐらい下にあった「タカ」って文字を押しちまった。
「はいよ」
タカののんびりした声が聞こえて、俺はなんでかひどくホッとした。
「よお、何してんの」
「何してんのって、配達だよ」
言ってなかったけど、タカは酒屋で働いてて、日中はいろんな店に配達に行ってる。
「運転中の携帯は、ポリ公に捕まるぜ」
「あー、いや、もう配達は終わったんだよ。だから大丈夫」
俺は笑った。こいつ、どこぞに車停めてサボってやがるな。
「まったく、クビになるぜそのうち」
「うるせえな、何の用だよ」
俺は思わず黙った。
でもタカが相手だからか、俺の口はおどろくべき躊躇のなさで話を始める。
「さっき、彼女から電話かかってきたんだけど」
「ん? ああ、倫ちゃん」
「無視しちまった」
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。