おやじパンクス、恋をする。#097
彼女のその笑顔の裏にあるもの、俺らには見せなかったいろいろなことを、多少なりとも知ったからかもしれない。
彼女の笑顔の中に、疲れっつうか、悲しみっつうか、そういうようなものを見た気がしたんだ。
まあ、俺自身が四十代、人間いろいろあるってことくらい、それなりにはわかってる。
それぞれ事情があって、それぞれ理不尽があって、それぞれ怒りもある。
当たり前のことだ。
他人のそういうことにいちいち首を突っ込むほど無粋じゃねえし、暇でもねえ。そもそも俺には、関係ねえ。
そう、関係ねえんだ。
でも今、俺の手の中で疲れた笑顔を――一度そう見るとそういう風にしか見えなくなった――見せる彼女のことは、俺に「関係ねえこと」ではなくなってきてる。
それは、涼介のボコボコの顔や、雄大の切羽詰まった言葉、控えめなボンの珍しい提言なんかを考えるまでもなく、明らかなことだったんだ。
そんとき、扉につけた小さな鈴が鳴った。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。