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おやじパンクス、恋をする。#132
その後梶さんから聞いた話は、なんていうか、内容自体は予想の範囲内で、こないだ雄大がここに来て話したことと、大差ないものだった。
彼女が、幼い頃から両親と離れて暮らしていたこと、梶さんが面倒を見てきたこと。そして、一時期は愛人のような関係にもなったが、今はもう、そういうことはなくなったってこと。
梶さんは例の、表情の読み取れねえ、というより、すべての感情が含まれてるみたいな表情をして、倫子を守ってきたつもりだったが、一方でそれはあいつを閉じ込めることにもなってたのかもしれない、自分が死ねばあいつは悲しむだろうが、それでやっと自由になれるだろう、みたいなことを言った。
雄大の話と大差ないのは確かなんだが、俺はその言い方に、梶さんの彼女に対する深い愛情を感じて、なんかほっこりした。
病室に居たのは正味三十分くらいだったと思う。
梶さんは、俺や雄大に質問する隙を与えず、悪く言えば一方的に話をして、そろそろ眠るからと言って終わりにした。
年齢や、あるいは病気のせいで、判断力が鈍ってるみたいな印象は受けなかった。たぶん、梶さんはもともとこういう感じの人なんだろう。
会社の絶対的なリーダーとして、カリスマ的に社員を引っ張ってきたんだなということがよく分かる。まあ、だからこそ後継が育たなかったって部分はあるにせよ。
横になって布団をかぶった梶さんに頭を下げて、病室を出た。扉を開けて俺を見送ろうとしていた雄大に、「ちょっとつきあえよ」と声をかけた。
奴は不満気な顔つきをしたが、結局何も言わずについてきた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。