おやじパンクス、恋をする。#047
彼女の飲みっぷりもなかなかだった。
なんつうか、強いんだろうな。一瞬おさまりかけた酔いがすげえ勢いでカムバックしてくる俺と違い、彼女は淡々と、だけど結構な勢いでジョッキを空にしていった。それでいて、言葉も態度もぜんぜん乱れねえ。
涼介タカボンがいつも通りああでもねえこうでもねえと音楽談義に花を咲かせている横で、俺はそんな彼女と向かい合って何とか同じペースで飲んでいた。
カウンター越しだが、その距離はほんの数十センチ、少しでも格好つけようと最近読んだ小説の話――だけどそれも石丸元章の本、ダメだろくでもねえ――なんかをする俺を、彼女は絶妙の微笑みで受け止めてくれる。
酒の効果ってのは一定じゃない。なんつうか、Aボタンを押しゃ必ずジャンプするマリオとかと違って、その日の体調とか気分とかで全然違った感じになる。
そう、誰と一緒にいるかも重要だ。
この日の俺は特に変な感じに酔っ払っていた。
まあ今考えりゃ単純にいつもより多くのビールを胃に流し込んじまったってことなのかもしれねえが、店に入って二時間も経った頃には、俺はまともに口が回んなくて、エイジアン・ダブ・ファウンデイションがどうのとか今度の野外イベントでやるDJで流す曲とか、いま流れてるクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのPVでのジョシュの顔つきがヤバイとかいろんな事を話してみるものの、なんだか途中で尻すぼみになっちまうっていうかさ。
自分が何を言いたいんだか分からなくなってきて、いや、違うな、俺はそんなことよりもっと別の何かを話したいと思っているのに何を言っているんだろうみてえな気分つうか、だけどそれもまたアルコールの分厚い膜にくるまれたつきたての餅みてえにヤワヤワした感情で、すぐに自分が何を考えていたか忘れちまって、ああ、痴呆老人の頭の中はこんな感じなのかなとか思いながらも全然危機感がねえっつうか。
あれ、俺いま何を話してたんだっけって、毎秒毎秒思いながら、だけど一秒前の事が思い出せねえから俺今何を話してたんだっけと考えてたかどうかも分からなくなって、それなのに震える手はずっとジョッキを離さず、それこそ機械的な動きでアルコールを次々と俺に投入する。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。