おやじパンクス、恋をする。#064
「自社ビル……社長さん……」
頭の中に、革張りの椅子にふんぞり返る脂ぎったジジイのイメージが浮かぶ。そしてそこに彼女が現れ、ジジイの頬に手を添えて……
クソ、やめてくれ。そんな想像したくない。
俺はでっけえ舌打ちをして、この苛立ちをカズに向かって吐き出す。
「つうかよ、だいたい何でてめえが彼女のこと知ってんだよ」
噛みつかんばかりの俺に対して、カズはいつもの呑気な笑みを浮かべ、どこか遠くを見つめるように話し出す。
「いやよ、ガキの頃にときどき遊んでたんだよ。梶さんがウチに来るとき、倫ちゃんもよく連れて来られてた。で、梶さんが親父と話してる間、俺と倫ちゃんで近くの公園行ったりしてさ。ああそうそう、一回、親父の部下に車出してもらって遊園地も行った」
「ゆ、遊園地だと……それってお前、デートじゃねえか」
驚きのあまり呆然とする俺に、カズはわははと笑う。
「まあそうだな。悪いな」
「悪いって……この野郎!」
「落ち着けよバカ。小学校の中学年くらいの話だぜ?」
小学校の、中学年。
そうか。俺は手元のグラスを引き寄せビールを流し込みながら考える。なるほど、つまり俺があのレストランで存在を知ることになるより前に、カズは彼女と会ってたってわけだ。
「そ、それで、どういう関係だったんだよてめえら」
「どういう関係も何も、チン毛も生えてねえガキだぜ。別に、単なる友達だよ。倫ちゃんは明るくて、性格もサバサバしててよ、そういう意味じゃむしろ男友達みてえな感じだったな」
ああ、うん。なんか分かる気がする。彼女、今でもそんな感じだ。
そして俺は今更のように思い出す。
「でもよ、彼女はその梶さんって人の娘じゃないわけだろ。なんでいちいちお前の家に連れてこられてんだよ」
「ああ、まあ、俺も最初は梶さんの娘だとばかり思ってたけどな。いつだったか、そうじゃなくて知り合いの子を預かってるだけだみたいな事を親父に知らされた。でも、なんとなく深くは聞いちゃいけねえように思ったんだろうな、モヤッとしたけど、まあいいかって流してた」
「……それで? そのまま仲良くしてたのか?」
俺が聞くとカズは首を振り、ビールを煽った。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。