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おやじパンクス、恋をする。#133
黙って暗い廊下を進んだ。エレベーターで一階まで降りた。
病院を出ると、外に作られた喫煙所スペースに行き、タバコに火を着けた。
「吸うか?」
すすめたが、雄大は首を振った。俺はガードレールに腰掛けて、やけにうまく感じる煙を空に吐き出した。
「なんですか」
雄大は俺を見ずに言った。いや、俺のことを見てはいるんだが、目が合わない。やっぱりどこか雰囲気が変わった気がする。
「梶さんって、すごい人だな」俺は言った。
「なんですかそれ。そんなことを言うためにここまで連れてきたんですか」
雄大は妙に苛立っていた。ひとつ投げれば十個くらい文句が返ってきそうな感じだ。でも、俺はなんでか安心した。文句を言ってるうちは、人は死なねえと思ったから。
「お前、今日仕事なかったの?」
あくまで何気なく聞いたつもりだったが、雄大はいよいよ表情を固くして、わかってるだろうにあらためて自分の服装を確認し、睨むように俺を見た。初めて目が合った。すぐに外されたが。
「休んだんです。ちょっと体調が悪かったし、親父の見舞いにも来たかったから」
雄大は病室でかなり長い時間を過ごしたはずだという気がした。理由はうまく言えねえが、なんていうか、あの部屋には独特の息苦しい空気がたまってた。
親父と息子っつうのは、同じ空間で、二人きりで、そう長い時間を過ごすものじゃない。どうしたってある種の気まずさが漂うし、それはやがて苛立ちに変わって、空気を息苦しく変えてしまう。
あのドシッと重たい、それでいてカサカサ乾いてるみてえな独特の空気は、かなり長い間二人がそこにいたってことを証明してる。
って、勝手な俺の想像なんだけど。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。