おやじパンクス、恋をする。#067
そんな俺の内側を知ってるだろうカズは、残っていたザーサイをボリボリ齧り、それをビールで流し込みながら、しばらくは黙ってくれていた。
何人かの客が話しかけて、カズはそれにソツなく対応したが、さっきまでみたいに、大笑いしたりでっかい声を出したり、長話をしたりはしなかった。
俺はカズが、他の客よりも俺を優先してくれている事が分かって、なんつうか、ありがたいやら申し訳ないやら、さらに居た堪れない気分になった。
「よお、カズ」俺は言った。
「なんだよ」カズはさも面倒くさそうな感じでビールをグラスに注ぎ、口に運んだ。
「その梶さんっておっさんに、会えねえかな」
俺が言うと、カズはブッとビールを吐き出した。
「な、何言ってんだよ!」
「いや、だってよ、そうするしかねえじゃねえか」
「そうするって、何をどうするってんだよ」
「だから、なんつうか、よく分かんねえけど、とりあえず話を聞いてみなきゃ何も分かんねえだろ」
「バカ言ってんじゃねえよ、何を聞くってんだ。あんたの女を頂きますがいいですかとでも言うつもりかよ」
「そんなんじゃねえよ、けど、このままじゃ彼女に会えねえだろ」
「なんでだよ、つうかむしろ、聞くんなら彼女に聞けよ、その方がずっとイージーだろ」
「イージーじゃねえよ」
「なんでだよ」
なんでだよ、と言われて、なんでだろうと俺は思った。
なんでイージーじゃないんだろう。
でも、俺に会いたいかどうか分からない彼女をまた訪ねて行って、その梶さんって人との関係を聞くだなんて、とてもできそうになかった。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。