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おやじパンクス、恋をする。#128
駅員一人いねえような寂れた駅を想像してたが、意外と大きな駅だった。ロータリーには十近くのバス乗り場があって、俺はGoogleマップのルート案内に従ってなんちゃらスポーツシティ行きのバスに乗り込んだ。
大鵬大学病院までは十五分程度、既に夜の八時近くだったが、帰宅する連中なんだろう、サラリーマンとか学生とか車内はかなり混んでいた。
なんとか座ることはできたが、発車間際になってよぼよぼの爺さんが乗ってきたんで席を譲った。爺さんはすごく丁寧な口調で礼を言って座ったんだが、録音された言葉をボタンひとつで再生したみたいで、全然気持ちがこもっていなかった。
だからムカついたとかじゃなくて、なんていうか爺さんは、俺っていう個人をちゃんと認識すらできていないように見えた。それくらいによぼよぼだった。
人間って勝手なもんだよな、今までは大して気にならなかったそういうことが、「もう長くねえ」っていう梶さんに会うことになった今、妙に意味深いものに思えてくる。つうか雄大は、この爺さん以上に死に近い梶さんに、彼女との関係を告白させるつもりなんだろうか。
そうこうしてる間にバスは「大鵬病院前」に到着した。
メインエントランスは既に閉まっていて、俺はその脇にある夜間通用口と書かれた扉から病院の中に入った。管理人室には堅物そうなおっさんが一人詰めていたが、こんなナリの俺が通っても特に気にした様子もない。
最低限の照明だけ残して消灯されている暗い廊下を進み、突き当たりにあるエレベーターに乗る。押すのは十一階のボタン。
扉が開いてすぐ、ベンチの並んだ待合スペースに座っている雄大が見えた。
すぐそばにナースステーションがあって、二三人の看護師が談笑している。対して雄大は見るからに落ち込んだ様子というか、大事な試合に負けたスポーツマンみてえに、膝の間に自分の頭を埋めるような体勢で、ネガティブなオーラをムンムンと発してやがる。
エレベーターの扉が背後で閉じ、「シタニマイリマス」とかいうちょっと空気を読めねえくらい大きな電子音声が流れた。
その音に反応して、雄大が顔を上げた。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。