おやじパンクス、恋をする。#010
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
いや、別にそれで何がどうなるのか考えてたわけじゃねえと思うんだよ。
ただなんつうか、その「秘密の遊び」みたいなもんを、もっと面白くさせたかっただけなんだ。もっと情報を得て、このいわゆる「膠着状態」に変化を与えたかったんだ。
引っ込み思案で臆病な「真面目くん」にしては強気な発想だ。
今思えば、やっぱり何十メートルかの距離は俺にとってのバリアーだったんだよ。ま、彼女が自分に気づいたら、そのバリアーがなくなっちまうかもしれないないんだけど。
ガキだからそこまで考えてなかったんだな多分。
とにかく俺は、どうすれば彼女に気づいてもらえるか、って考え始めた。
たださ、いざ方法を考えたら、何にもねえのな。
彼女の存在を俺の親に知られるのは絶対に嫌だった。だから、例えばその場で手を振ったりとか、そういうのはできないわけだろ。大声出して聞こえる距離でもねえし、まさかテレパシーで話せるわけでもねえ。
実際のところ、どうしようもなかったんだよ。
結局状況は何も変わらなかった。俺は親がレストランを予約するのを待つことしかできず、席に座って彼女をじっと見つめることしかできず、彼女が俺の存在に気付いてくれるのを願うことしかできなかった。そのまま何ヶ月も過ぎていった。
俺はだんだんと、彼女に対する興味を失っていった。
彼女の姿をちょっとしか見れなくても、別に残念でもなくなっていった。
まあ、道理だよな。なんたって人間は、飽きるのが大の得意だ。
だが、物事ってのは自分の気持ちに関係なく、ときには一気に動き出すもんでさ。