おやじパンクス、恋をする。#159
ぼんやりしてるとなんか沈んでくるんで、俺は早々に店に入ると、いつもよりも丁寧に掃除をし、グラスを拭いて、インセンスを焚いて……それでも時間はまだ五時前、開店時間までは随分と時間がある。
彼女と飲んだアルコールは、独特のダルさだけを残してすっかり抜けてしまっていた。こういう時にバイクを飛ばすとスカッとすんだが、残念ながら涼介の親父からはまだ連絡がない。
やることがなくなると、客席に座ってタバコに火をつけた。
ここに、涼介やカズやタカボンが座ってる風景がなぜか頭に思い浮かんだ。
声を荒らげ、大笑いし、くだを巻き、時には涙を流し、好き勝手に感情を発散させる奴ら。あいつらはここに、どういう気持ちで足を運んでくるんだろう。
なんで急にそんなことを思うのか、よくわからない。
ただ、俺はいつだって、「訪ねてもらう側」だった。
わざわざ呼ばずとも誰かがやって来たし、誰かが来なくても別の誰かが来た。
それに、だ。こんな事を言うのもアレだけど、俺が店主で皆が客である以上、俺が拒絶されることって、ないんだよな。
俺のことは大嫌いで顔も見たくねえけど、この店には来る。なんてヤツいねえわけだから。
一方客の方からすると、俺から拒絶される不安みたいなものって、少なからずあるもんなのかもしれねえ。
いや、拒絶って言うとなんか感じ悪いけど、つまり別の客の対応で忙しくて話せないとか、そういうのも含めてだけど、とにかく「楽しもう」と思って店に来ても、「楽しませてもらえない」ケースって、けっこうあるんじゃねえのかな。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。