おやじパンクス、恋をする。#161
要するに俺は、皆が集まってくれるこの店で、ぬくぬく過ごしてた。そういう事なんだろうなと思った。
客が来る、俺に会いに来てくれる、それだけで、俺は自己肯定感を得ることができたし、その自己肯定感は客が来るたびにチャリンチャリンと懐に入ってくるから、それ自体に大した価値を感じなくなっていった。
小銭入れの中の一円玉みてえに、何ならこれが足りてない奴に寄付してやりたいくらいの、その程度の価値しかなかった。
俺は、いつだってシード扱いされる強豪校だ。
ここでは俺が一番強く、ここでは俺が、皆を助けてやる立場だ。そんな傲慢が、いつの間にか俺の中に生まれていた。
開店時間に遅刻したり、嫌だと思えば早い時間に閉店して遊びに行ったり、御存知の通りその場のノリで貸し切りにしちまった夜も数知れねえ。
別に自分で商売してんだから誰に咎められることでもねえんだろうが、俺は今、そういう今までの自分がひどくガキくさく思えるのだった。
そう、要するに、自己肯定感がどっかいっちまった。
笑い話だ。
久々の恋愛に不安いっぱいの俺は、これまで何のありがたみも感じないまま捨て置いていた自己肯定感を、一瞬のうちに見失っていた。
まるでショッピングモールで迷子になったガキみてえに、何をどうしていいか分からずうずくまって泣いてるだけ。
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。